◆最後の「破」

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 軽い失恋のようなものだったが、それでもいい。そう思った。  少しの間でも僕が男以外、つまり異性に興味を持つことが出来たこと自体が、何故か嬉しかった。  佐川や名塚との体験は、人生の中では貴重な体験だと思う。  しかし長い目で見た場合、その時の恋愛感情が正しかったとは決して言えない。もちろんそのままの感覚で突き進む人もいるだろう。僕はその人たちを否定はしない。  恋は盲目という言葉通り、その渦中にいれば自分の恋愛こそ至上で最高のものに思えるのだ。  けれど、僕はそうはならなかった。途中で路線が変わった。それだけのことだ。  あれから僕は勉強を重ね、念願の志望校に合格することが出来た。  大事な一年を余分に過ごし、両親の大切なお金も使わせることになったが、そのお金は、大学に入ってバイトをして少しずつ返していく、そう決めた。 「人生に無駄なものは、何一つない」  そんな偉人の言葉がある。  今回の件はそうだったかもしれない。この経験が何かに生かされる日かもしれない。  けれど、それは僕の立場で見た場合だ。僕の両親は、僕の所業を知れば、ショックを受けるだろう。決して快くは思わないはずだ。    空を見上げながら、未来を思った。  約一年をかけて、男二人に振られ、女性への思慕も破れた。  明日以降、何があっても、どんな綺麗な人が現れても、もう恋心を抱くことはないだろう。  そう思いながら生きていても、何かをきっかけにして恋に落ちるかもしれない。  けれど、恋も人生もそういうものだと思う。  できれば、この先、本当に愛せる人を見つけたい。  大学は男女共学だ。もう対象が男になることはないと思うが、それが女性であっても、僕は誰かに愛されるよりも、愛したいのだ。   (了)

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