1 こたつと日葵

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 豚キムチを仕上げてこたつに戻ると、「日葵の番」と陽太がゲームのコントローラーを渡してきた。  テレビ画面の中で、赤い電車とサイコロがわたしを待っている。  社長になって、日本中を回って物件を買ったり貧乏神をなすりつけ合ったりしながら、総資産を競い合うテーブルゲーム、桃二郎電鉄だ。  二人の間で最近また桃鉄熱が再燃し、さすがに学生の時のように朝まで、はないけど、結構夜遅くまでやっている。  暖色系でまとめた部屋の中にぽつんとある黒いゲーム機、これは元々陽太のもので、学生時代ハマっていた時の徹夜明けの朝、陽太がそのままうちに置いていった。 「プレステ3買ったし、日葵としかやんねーし」  その時に言った陽太のこれも、過去のわたしが勘違いしてしまった原因の一つだと思う。  陽太は、大学生のときからの友人だ。 たまたま同じマンションの一室をお互いに借りていて、隣同士ってわけじゃないけど同じフロアで。初めてそれを知ったときは、無邪気に胸を踊らせた。  まだ十代だった。  陽太とは知り合って4ヶ月くらいで、気が合ったし、好みの可愛い系の外見だったことも手伝って、陽太が彼氏だったら楽しそうとか、好きかもとか、呑気なこと考えていたなと思う。  わたしといると陽太はよく笑う、って友達に言われて舞い上がり、自分自身もそうかも、なんて思っていたからうっかり告白っぽいこともしたけど、勘違いもいいとこだった。困った顔されて、軽く流されて終わっただけ。  結局、陽太とは手が触れ合うなんてことさえなく、淡い想いは棚の上に置きっぱなしのまま、10年という長い長い月日が過ぎた。
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