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「ここ行ってみたいんだよねー。三朝温泉。知ってる?」
「知らない」
「なんかね、お湯がとろとろで肌つるつるになるんだって」
前に一度テレビで見てから、行きたいと思っていた。梨も好きだし、砂丘にも行ってみたいし。
「つるつるになる温泉入ってー、豪華なごはん食べてー、お酒飲んでダラダラしてー……絶対最高だよね。あー、彼氏と行きたい。浴衣でカラコロしたい」
「カラコロ?」
「浴衣で温泉街歩くこと」
「ふーん。俺が一緒に行ってやろうか?」
「だから、彼氏と行きたいんだって」
「だから、俺と付き合うかって」
テレビから、またぶるるるると間の抜けた音がした。陽太は画面を見ていて、「お、俺もいいとこ行きそう」と呟く。
またそうやってすぐ軽々しく言う。
わたしが「うん」って言ったら、あの時みたいに困るくせに。
唇を噛む。
陽太はやっぱり顔色ひとつ変えていなくて、何も考えずに言っている、そうちゃんとわかっていたのに、胸がちくりとした。
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