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1 こたつと日葵
「うまくいきそうだったのに、色々あって駄目になった」
――日葵ちゃんのこと好きだよ。でも、優香ちゃんも好きなんだよね。
入社した時から面倒見てくれていた先輩である彼は、同じ部署でわたしの同期でもある女の子の名前を出し、悪びれる様子もなくそう言ってのけた。
この前告白的なこと言ってなかったっけ? とか、本音だとしても、そのまま言うとか頭おかしいのかな? とか、いや、逆にすごいか、とか、そんなことを思っているうちに、始まりそうだった恋は、悲壮を感じる間もなく終わった。
なんとも言えない失恋話を“色々”でまとめたわたしに、「あー、やっぱり」と聞き捨てならないことを陽太が言った。
「だから俺にしておけば良かったのに」
「……ハイハイ」
電話の向こうから届く飄々とした声。きっと顔も、いつものように無表情に違いない。
わずかに跳ねた心臓に悟られないよう努めて平坦に出した声は、若干揺らいでいた。
「じゃあ、飲むか」
「んー……そだね」
「今日そっち行くわ」
「りょーかい。なんか美味しそうなもの買ってきて」
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