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それから……
私の大嫌いな彼女が亡くなったと知らせを受け、私は喪服に身を包んでいた。
葬儀会場には、たくさんの花と彼女の遺影が飾られていたけど、何の実感も湧かなかった。
遺影の彼女は憎たらしいくらいに綺麗で、まるで私のことを笑っているみたいだもの。
「騙された?私が死ぬわけないでしょ?」
そんなことを今にも言い出しそうじゃない。
ボーッとしたまま、葬儀に参加していたけど、やがて最後の別れとなり、彼女の遺体に花を入れることになった。
「どうぞ、ぜひ花を入れてやってください」
「はい……」
遠巻きにそれを見ていたけど、彼女のご主人に花を渡され、断ることも出来ずにそれを受け取る。
受け取った花をそっと入れてから、初めて彼女をじっくりと見て、その頬に触れた。
彼女の顔はすっかり痩せ細っていて、びっくりするくらいに冷たかった。
本当に、死んじゃったんだ。
そう実感した途端、涙がツーっと頬を伝った。
「死んで、勝ち逃げなんてずるいじゃない……」
私たちの勝負は、181勝182敗。
今のところ、私が負けている。
勝ったままあの世にいくなんて、最後まで嫌味な女。
小さな頃からいつも競い合い、張り合ってきたけど、もう二度と彼女と戦うことは出来ないんだ。
そう実感すると悲しくて悲しくて、次から次へと涙が溢れてきた。
いい年して声をあげて泣いてしまい、彼女のご主人や娘さんよりも大きな私の嗚咽が葬儀会場に響き渡る。
我に返った時にはいつのまにか親族以外はみんな帰っていて、あわてて私も帰ろうとすると、彼女のご主人にすみませんと声をかけられた。
「妻がこれをあなたに渡してくれと」
そう言ってご主人から手渡された白い封筒を受け取る。封筒の中身が何か考えているうちに、ご主人はゆっくりと話し始めた。
「妻は、最期まであなたのことを気にしていました。私や娘よりもあなたのことを気にかけていて、なんだか複雑でしたよ。……ですが、あなたには心から感謝しています。
彼女はあなたに負けたくない一心で、生きる気力を振り絞っていましたから。研究室に行けなくなってからも、妻は最後まで研究を続けていました」
懐かしむように話すご主人に何を言っていいのか分からず、黙って頭を下げる。
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