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たっぷり夕方までしごかれて、ようやく今日の練習が終わった。
ピアノから離れた相葉さんは来た時のようなおっとり笑顔に戻っていた。
「お疲れさまでした。明日は午後から練習ですよね。この調子でまた頑張りましょう!」
そう告げて、そよ風のように爽やかに軽やかに去っていった。
嵐が去った、とその場の誰もが思ったことだろう。
「……あの人、二重人格なの?」「知らないよそんなこと……」「もしかしてピアノに触るとキャラ変わるとか? ほら、車のハンドル握ったら人格変わる人とかいるっていうし……」「オレ……罵られるの……悪くなかった……」「黙れドMエロ番長」「何にせよ、明日もこれ、なんだよな……」「これでもし地区予選落ちたら、どうなるんだろう……」
『……』
誰かの一言に、全員の動きが止まった。みんなの脳裏には鬼の形相で自分達を扱き下ろす相葉さんの姿が浮かんでいるだろう。
「……勝とう、絶対」
こうして我が合唱部の、長く厳しい夏が始まった。
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