蛮勇のクリエイター

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◇  その日、私は新しい作品の取材のため、渋谷を歩いていた。  宮益坂の大通りから裏に一本入った道。渋谷の大通りは人の往来が盛んだが、裏道へ一本入ると途端に顔色が変わる。首都高に近い方の裏道は整備が進んでいるが、その反対はスラムのような廃墟感を匂わせ始める。光と闇が共存するようなその世界で、私は新たな世界の入口となりそうなネタを探していた。  スラムのような危険な匂いに日和気味の私は、首都高側の裏道を練り歩いていると、ふと道端になにか落ちているのに気づいた。風で飛んできたチラシか何かだろうか。普段であれば、道端のゴミなど気にもとめない私だが、伽藍堂のように整然としていて冷たいビルの谷間に、そのオブジェクトは似つかわしくないと思い、ガラにもなく拾い上げた。何気ない行動の中、手に伝わるその質感からすぐにそれはチラシでないことに気づいた。 ーー1枚の風景写真。  チラシであれば打ち捨ててもいいが、写真となると若干扱いに困る。まばらどころか、私しかいないようなこの裏道。誰かが落としたとは考えにくい。  はてどうしたものか、とその写真と睨めっこをしていると、ふとこの風景に見覚えがることに気づいた。どこかで見たようなと思えば、これは今まさに見えている光景。この場所の写真であった。
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