蛮勇のクリエイター

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 キッズハウスの玄関ほどの大きさだろうか、狭いその入り口をくぐると、中は思ったよりも簡素な作りになっていた。間取りこそ中規模のギャラリーほどの広さはあるものの、四方を囲むのは木目のわかる板張りの壁。足元はコンクリートが敷き詰められた冷たい床。広い個室の中央に座するのは部屋の対角線上に向けられた一脚のアンティーク椅子。少しばかりカビ臭い空気は深く息をするとむせそうになる。  ビルの一室にしては異質なその光景。なにより、写真展にしては一枚も写真が飾られていないのだ。本当にここは写真展なのか?もし間違いなら私は早々に立ち退かなければならない。私はこの部屋の主を探そうと声を上げてみる。 「すみません、誰かいませんかー?」  しかし、帰ってくるのは広い部屋に木霊する私の声ばかり。あたりの様子を伺いながら部屋の中央の椅子へと近づいても、聞こえてくるのは私の足音だけ。椅子の背もたれに手をかけた私の中で、今まで疑念だった事が確信に変わってゆく。 ーーもしかして、ここには何もないのだろうか?  はじめから壮大ないたずらだったのかもしれない。そう思うやいなや、先程までの高揚感のオセロ石がひどい疲れへとひっくり返る。よっぽど興奮していたのだろう。すぅと下半身から力が抜け、足が自分のものではないかのように自由が効かなくなり、私は思わず目の前の椅子へとへたり込んでしまった。 ーーこの椅子もそのために用意されていたのかもな。  と、椅子の背にもたれつつ、うつむき気味だった視線を上げる。ふと視線の先に、入ってきた方の壁が目に写った。四方を木の板が囲んでいたと思っていたが、その壁面だけは一面が鏡張りになっていたようだ。
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