もう一つの『蜘蛛の糸』ストーリー

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 春のある朝……  都心から離れた閑静な道を、一人の青年が歩いていた。  彼の名は、大久保(おおくぼ)ドクヤといい、会頭(かいと)大学の三年生だった。  ドクヤの自宅は近くにあり、裏の山に向かって散歩していたのだ。  身長は低目で中肉中背の彼は、柔和(にゅうわ)な顔付きで足いていた。  実は彼には、誰も知らないウラの顔があった。  とんでもないテロリストで、殺人を伴う色々な事件を起してきたのだ。  しかし、一度も逮捕されたことがないのだった。  何故かというと、彼は実に頭が良く、手袋をするのは無論、特殊な素材で出来た跡が残らない靴を()いて、犯行に及んでいたのだ。  それに犯行時は、ブロンドのヘアピースを使っていた。  さらに彼が学生ということも、その正体を隠すのに役立っていたようだ。 (昨日は本当に上手くいったから……今朝は、実に気持ちいいな……)  その意味は……  昨日、都内で起きた、テナントビルのMMビルの爆破事件を成功させたからだった。  犠牲者は三十人以上で、半数以上が死亡していた。 「本当に昨日の〝仕事〞は上手くいったもんだ……。最高だよ……」  やがてドクヤは、その山に入っていった。  名も無い低い山だが、登りやすいので、彼はよく登っていた。
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