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「……俺だって、好きでケンカしてる訳じゃない」
拗ねたような、小さな声。
明らかに今までと違う雰囲気になぜかドクリと鼓動が跳ねる。
そんな俺の胸の内を知る由もないヒサギちゃんは、俯いて俺の手をぐっと握り返してきた──
「──痛っ!」
その力強さといったら!
「ごめん……」
「大丈夫! びっくりしただけだからっ!」
俺の一言がヒサギちゃんを傷付けてしまったような気がして……。
そろそろと逃げ出していったヒサギちゃんの手を捕まえて、両手でしっかりと包み込んだ。
思わず声をあげてしまうほど力強かったヒサギちゃんの手だけど、その左手は俺の手の中にすっぽりと収まってしまっている。
女の子の手みたいだと思ったことは口が裂けても言えない。
「ヒサギちゃんは、卒業したらどうするか決めてる?」
「別に……」
「俺、美容師目指すんだ」
「…………」
「これといってやりたい事が無いなら、俺と一緒に美容師目指そうよ」
「はぁ!? そんなん無理に決まって……」
「決めつけちゃ駄目。この手で、沢山の人を笑顔にしたり、キレイにする魔法をかけるんだよ」
「……っ、ははっ、なんだよ、魔法って」
曇った表情は一転して、ヒサギちゃんは笑い出した。
恥ずかしいことを言ってるのは重々承知だ。
けど俺は、小さい頃からそんな風に思って美容師という職業に憧れていたんだ。
「いいじゃん。夢は大きくファンタジックに、だよ」
「お前って、時々変だよな」
そう言ってヒサギちゃんは、凄く柔らかな笑みを浮かべた。
──瞬間、俺の鼓動は一際高鳴り、ヒサギちゃんから目が離せなくなった。
煩く鳴る鼓動以外、何も聞こえない。
そんな錯覚すら覚えて……。
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