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これは、うちのおばあちゃんが地球を救ったときのお話。
ある時地球に宇宙人がやってきた。
彼らは巨大な宇宙船の大艦隊を引き連れて現れ、地球に降伏勧告をしてきた。
当時の地球には彼らに対抗しうる科学力はなかったので、降伏し隷属する以外の道はないと皆思ったそうだ。
だが歯向かうものがいないと知るや宇宙人たちは言い始めた。
「無抵抗の相手を隷属させてもつまらん。何の自慢にもならないではないか」
そんなわけで彼らは全人類から無作為に三人を選び出し、一騎打ちの勝負をするように言ってきた。
勝負の方法は人類側の一人ひとりが自由に選んでよい。
三人のうちの誰かが勝利すれば、地球人類の勝利とする。
そんな条件が出された。
一人目は当時百メートル走で世界記録を打ち立てていた、通称「最速の男」。
挑むのは当然百メートル走であった。
だが宇宙人の身体能力は地球人類のそれとは比べ物にならない高さで、残念ながらあっさり敗退してしまう。
二人目は当時記憶力世界一記録を保持していた、通称「ミスター・メモリー」。
これまた挑むのは記憶力勝負であった。
だが宇宙人は頭脳でも地球人のそれとは比べ物にならない高い能力を持っていて、これもまたあっさり敗退してしまう。
そして三人目に選ばれたのが……うちのおばあちゃん。
おばあちゃんは当時72歳。
ごく普通の専業主婦で、友達と一緒に温泉巡りをするのが大好きだった。
その能力に特筆すべきものはなく、いかなる点でも世界一ではなかった。
当然なぜこの人が選ばれたのかと当時喧々諤々の論争になった。
この負けられない最後の勝負によりにもよってこんな老人がなぜ……と。
だが宇宙人が勝負の相手に選んだ以上覆すこともできなかった。
そして勝負当日になった……。
「地球人よ、どのような方法で勝負するのだ」
全人類が固唾を飲んで見守るなか、おばあちゃんはにっこり笑って言ったそうだ。
「私は特別得意なこともございませんので……」
そしておんぶ紐で背中に背負った私を……つまり当時まだ生まれて間もなかった私を降ろすと
「にらめっこでこの子を笑わせたほうが勝ち、というのでいかがでしょう?」
全地球からブーイングの嵐が巻き起こったという。
いくらなんでもそんな方法で……。
だが宇宙人自身が勝負の方法を自由に選んで良いと言っている以上、この申し出もまた有効であるという結論となった。
全世界が見守る中で、世紀のにらめっこ勝負が始まった。
先行はおばあちゃん。
「にーらめっこしーましょ、わーらったーらまーけよ、あっぷっぷぅ」
物心つく前だった私ははっきり言って覚えていないのだが、当時の私はおばあちゃんのにらめっこで必ず笑っていたそうだ。
そしてこの時も私はおばあちゃんのにらめっこに声をあげて笑ったらしい。
先の二つの勝負にことごとく圧勝してきた宇宙人もこの勝負に挑む。
だが……
「にーらめっこしーましょ、わーらったーらまーけよ、あっぷっぷぅ」
当時の私はその宇宙人の顔を見て泣き出してしまったのだそうだ。
こうして宇宙人は最後の勝負で一敗を喫し、地球から手を引くこととなった。
ところでこれには後日談がある。
さすがの宇宙人たちもこの勝負が有効かどうか、激しい議論になったのだそうだ。
そして勝敗があわやというところでひっくり返されそうになった時……。
彼らのおばあちゃんが「一度した約束を破ってはいけません」と諭し、事なきを得たらしい。
またこの勝負の結果、銀河文明との接触を果たすこととなった人類はクラス3知性体として「銀河知性体同盟」に参加することになり、一気に宇宙時代を迎えることとなった。
今では多数の異星人が地球に来訪しているし、地球人の宇宙進出も進んでいる。
ちなみにうちのおばあちゃんが今どうしているかというと、件の宇宙人のおばあちゃんとお友達になって、みんなで宇宙温泉巡りを楽しんでいるそうだ。
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