月に叢雲、花に風

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雅「サル君いる?」 借りパクした筆を置いて一息付いているとその借りパクされた張本人の声がした。 その前にそろそろ俺が何でみんなにサルって呼ばれてるかが気になってきた頃だろ? ぜひとも知ってくれ! このゲーム内で主人公は動物に例えられて呼ばれているんだけど、俺が覚えてる限りサルなんてのは記憶になかった。 ウサギとかリスとか子猫とか小鳥とか、とりあえず可愛い感じの小動物なはずだったんだけどな。 出会い方で呼び方が変わるんだが、俺は何故か気付いたときには木の上にいた。 そして俺の名前の最初の『さ』と最後の『る』をとってサルでちょうどいいとか、あの双刃がほざきやがって俺の呼び名はサルになったってわけだ。 意味わかる? 俺は全然意味わかんなかったね。 別に可愛く呼ばれたかったわけじゃないけど、俺の『のあた』に謝れ! 意味わかんない縮め方しやがって。 俺も一時期は「サルって天下統一の豊臣秀吉みたいじゃん!俺もこの男達相手に天下統一しに来たみたいなもんだし、めっちゃぴったりじゃん!」とか訳のわかんない納得をしていたこともあったが、本当にワケわからん。 そうこうしてる内に雅が襖を開けて現れた。 返事してないのに開けんな! 雅「筆と硯が全然帰ってこなかったから僕の方から来ちゃった」 俺は返しに行ったら手を出されると知っていてノコノコ訪れる程、危機感のない男ではない。 雅「部屋に入っても?」 陽「そのお茶飲むくらいなら付き合う。その代わりそれ飲んだら帰れよ」 現れた雅の手にはお茶と茶菓子の乗ったお盆が見えた。 流石にそれを見て追い返すほど酷い男でもない。 それに自室はほぼ安全地帯なのだ。 ここで大変な目にあったのは朝の布団に双刃が忍び込んできやがった時くらいだ。 それ以外は多少の口説きくらいはあれど、その距離を一番取りやすい場所だった。 雅「じゃあ失礼します」 陽「ちょっと待って、座布団くらい出すから」 俺の言葉を聞いた雅がお得意の余裕の微笑みを繰り出してきた。 陽「何だよ?」 雅「早く帰れって言う割にはちゃんともてなしてくれるんだなって」 前回も言った通りこいつらは普通にいいやつらだ。 だから俺はこいつらが嫌いなわけではない。 普通にしていてくれるなら話もするし、気だって遣うし、こっちだって普通に接するさ。
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