電話

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「これから僕たちはどうなってゆくのかな」 『普通に生きていくんだと思うよ』 「普通って何?」 『今まで通り。みんなと同じってことさ』 「普通に生きていけないってどういうこと?」 『戦争が起きたりすることさ』 「戦争が起きるのは今まで通りじゃないの?」 『僕が生きている間には日本で起こってないよ』 「他に普通じゃないことって何?」 『宇宙人がきたり、地球が無くなったりすることかな』 「そんなことは起こらないの?」 『起きるわけないさ。普通じゃないもの』 「じゃあ君は普通の人生を歩んでゆくんだね?」 『うん。そう願ってるよ』 「今まで通り、みんなと同じ人生ってことだね?」 『うん。みんなと同じなら不安はないよ』 「君は今幸せかい?」 『幸せさ』 「じゃあ普通の人生が幸せってことだね?」 『そうだねきっと』 「今後の人生も普通で、今まで通りで、みんなと同じでずっと幸せなんだね」 『……』 「ねえ」 『なんだい?』 「僕たちは何か間違ってるのかな」 『……』 「いいや間違ってないよ」 『……』 「そうだろう?」 『……』 「僕らはきっとこの先も人生80年生きていくんだ」 『……』 「それが幸せで幸せでたまらないんだ」 『……』 「僕らは生きていく。必ずそうなるはずだ」 『……』 「この先もずっと毎日毎日。起きて、食べて、寝て。その繰り返しさ」 『……』 「政治も戦争も貧困も大麻もタトゥーも殺人も。関係ない話さ」 『でもあいつらは大麻をやっていたよ』 「……」 『あいつの親父はヤクザだった』 「……」 『隣の学校では自殺者が出た』 「……」 『中学の友達が遠くの街で覚醒剤を売っていると聞いた』 「……」 『それを知ったのはそいつの母親と会った次の日だった』 「……」 『詳しくはわからないが息子が遠くで上手くやってるらしい、と喜んでいた』 「……」 『友達がゲイだってことを教えてきた』 「……」 『一生独身か、女性と結婚すべきか聞いてきた』 「……」 『友達がベジタリアンになると言ってきた』 「……」 『家畜の受ける仕打ちが可哀想なんだって、残酷な写真を見せられた』 「……」 『僕たちは何も知らないんだ。そうやって生きてきた』 「……」 『何も知らないことが幸せだと知っている』 「やめろ」 『普通じゃないことには目を向けたくない』 「黙れ」 『でもそれが本当はたまらなく、どうしようもなく』 「黙れ!」 『悔しいんだ』 「君は誰なんだ?」 『君を一番よく知っている人だよ』 「じゃあ答えてくれよ」 『なんだって答えるさ。君が知っていることならね』 「僕たちは何か間違ってるのかな」 『……』
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