キミヲマツ

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キミヲマツ

昨日は眠れなかった。朝日と呼ばれていた光の結晶は、もう天高く昇って、空の最も高いところで煌めいていた。  昼前の市民公園の入り口。そこで僕はそわそわと立っていた。約束の時間まであと一時間半もあるというのに、気が気で無くて、気が付いたらここにいた。こんな気持ち、誰が理解できるだろう。どんな高名な学者が挙って解明に乗り出しても、たぶん今のこの心の状況を説明するのは無理だろう。落ち着かなくて、勢いよくポケットに手を入れ、弄ってスマホを取り出す。おもむろに彼女の写メを開くと顔が少し火照った。 「今日はありがと…… えっと……」自然に口が動いて、今日のリハーサルをする。  でも、何故だろう?   彼女と会うと、どうしても素直になれなくて……  彼女といると、胸が苦しくて……  彼女がいると、心がうきうきして。  彼女を見ると、世界が明るく見える。  この気持ち。彼女まで届いているのだろうか?  そうならいいな。そうだと嬉しい。今はダメでもいつか届いて。心が何度もそう囁くんだ。僕の中を彼女色に染めあげて――――  楽しい時間はすぐに過ぎ去る…… なんて、誰かが言ってたよね?それはあながち間違いじゃない。時計塔を見ると時刻はもう、約束の時間になっている。楽しい空想の世界ももう終わり。僕はその世界からの目覚めを促そうと、両手で頬を強く張った。  やっぱり、そわそわする。そわそわして当たりを見回す。「たかしーーーっ」と呼ぶ声にふと、振り返る。今まで僕のヴィジョンにいた麗しい姿が露になる。僕に気付いて、僕に向かって手を振っている。それまでの味気ない人並みに”彼女色”が浮き彫りになる。    僕は応えて、手を振った。  彼女は僕の傍らで零れんばかりの笑顔を見せた。  堪らなくなった僕は、彼女をぎゅっと抱き締める。    君を待つ僕。そんな僕もきらいじゃないけど、本当は君といる僕。君と手を繋いでいる僕の方がずっと好きなんだ。  それよりも、ずっとずっとずっと――――  君のことがこの世界で、何より一番好きなんだ    
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