白い世界、僕らの色

1/1
前へ
/6ページ
次へ

白い世界、僕らの色

今日は朝から雪がパラついていた。  見上げるとダークグレーの曇天が粉雪を散らせて、僕の心を圧迫する。  僕は俯き、目を閉じた。僕の視界に闇を与えて、鬱屈な気分を追い払うと試みる。試みたけど、人の心はそんな単純には出来ていないみたいだ。鬱屈な気分はやがて、寂しさへと変わって、僕の心を這いずり回る。   「はぁ……」思わずため息が漏れた。  そうして、埋もれそうな何かを探すように一歩を踏み出す。  白く染まりかけたこの街を僕は行く。一歩一歩踏みしめる度にキュッキュッと雪が軋む。  雪はますます強くなり、僕の視界を遮った。やがて、ダウンジャケットの温もりは冷め、体がぶるぶると震えそうだ。僕は足早に家路を急いだ。    僕はすべてを天候のせいにして、早足で歩いていた。今にも蘇りそうだったから。   この街が白一色に染まる前に――――  染まったら、僕はきっと、思い出す……  君という記憶、君という残像、君というぬくもりを……  でも、拒めば拒むほど、懐かしい君は僕の心を乗っ取っていく。  今頃、どこで何をしているのだろう。元気にしているか。あの歌はまだ聞いているかい。きっと、いい人出来たんだろうな。幸せでいるかい。  君にかけたい言葉が次々に雪崩を打つ。そうやって、さらに僕を惨めにさせる。  僕はただ、家路を急いだ。これ以上は辛いから……  雪降る世界、白銀の街。  もう戻れないあの頃を――――  振り払うように僕はただただ歩を進める。  戻れっこない過去を置き去りにして……
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加