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くるくる回る、くるくる回る、イスに座ってくるくる回る――が、なにも出てこない。
…ここ最近、縁談の一件を払おうと組み手とか組み手とか道場破りとかに打ち込んでいた――頭を空にするようにしていたせいで、どうやら脳内にキープしておいたネタまで消失してしまったらしい。
しかし幸いなことに、近い締め切りの原稿は上がっているし、ゲスト原稿も大方送付済み。
今日はやっとこ落ち着いたので、リハビリ的にかるーくアレコレ書いてみようかと思った――だけなので、まぁ…ネタは出ずとも、作品書けずとも支障はない。
支障はない――…けど、ストレスは堪るよね。書きたいのに書けない!あ゛ー!!
「……私だけど」
控えめなノックのあと、それに倣うようにして控えめに聞こえてきたのは――我が親友の声。
梨亜には珍しいアポなし訪問――も、意外だけれど、なんとも歯切れの悪い、覇気のない――というより困惑交じりの声の方が意外で。
らしくない親友の訪問――とはいえそこはちゃんと受け入れる。
寧ろここは両手を広げて受け入れなければ親友の名が廃る!
珍しく――というかありえないことに!悩みを抱えた梨亜がバカを頼ってきたんだから!
これは3か月年上のお姉さんとしてどすんと受け止めねば!
「はいよ!どうし――っぷ!」
「……」
「ィデでででデ…!何に…?!何でそんなにお冠…!」
「――…フンっ」
「ぁふん」
笑顔で歓迎した――ら、おもきし顔面をグワシと鷲掴まれる。
なんともデジャブ漂う激痛――ではあるけれど、顔を合わせて一秒で顔面鷲掴みは前例がない。さすがに。
どういうワケやら既に我慢の限界を振り切ったお冠状態の梨亜――だったけれど、私の顔を鷲掴んだことで若干気が晴れたやら、ぺいと鷲掴んでいた私を投げ捨てる――ベッドに向かって。
力任せに投げ飛ばされた――ものの、その先は硬い床ではなくスプリングの利いたベッド。
道場での日々を思えばこれは天国――ではあるけれど、親友の不機嫌が原因だけに、心は穏やかじゃない――こともない。
相手にパニくられると逆に冷静になる的なことで。
「なに?どったの??」
「………清護と話し合ってきた」
「ッ――ぐぼ!」
どっこいと起き上がり、ベッドから定位置の作業場へ移動しようとした――が、フックの如き強烈な名前をモロに喰らってずっこける。
だけれどコケた痛みは動揺でスッ飛び時空の彼方――慌てて「如何で御座った?!」と声を上げた――ら、脳天に親友の踵on!
「ぇぇー…?なにぃ…?なにがあったというのぉー…?」
「…………結論だけを言うと――…説得できなかった」
「ッ――いたたたた!!」
「黙って聞いてろ――で、真偽はともかく思惑も目的も動機も聞いた」
「…うん」
「聞いた――けど………夏希に邪魔された…っ」
「ホワッツ?」
悔しげ――というのか、自分の不甲斐なさに憤りを覚えている――といった風で梨亜が憎らしげに口にした名前は「夏希」。
我々より一つしか上じゃないのに、既に数多の一族の命運を背負う次期華雅屋当主である華雅屋夏希――が出張ったなら、梨亜が敵わないのも仕方ない。
――けれども、今回の一件になっちゃんが絡んでくる理由が分からない。てか、なんで破棄の邪魔をしたよなっちゃんや。
「なんで?なんでなん?てかなっちゃんが邪魔――…
……もしやコレ、なっちゃんの碌でもないお茶目?清護さんにトンでもない無茶ぶりキター??」
「………夏希主導だったら、幾分か納得のしようもあったんですけどね…っ」
「………………待て。それじゃなによ?あくまで主導は清護さんだって??」
あくまでなっちゃんに怒りを向ける梨亜――ではあるけれど、口では「そうだったら」と、なっちゃん主導であれば納得の余地はあったと言う。
しかしそう言いながら梨亜はプンスコしている――…ということは、問題の主導者は我らが大魔王・夏希ではなく、
「はぁああ??!白昼夢ちゃうか?!ウソやろ!?狐か狸に化かされたんでね――ぃでで!?」
「私だって悪い夢だと思いたいわよッ!
だけど……!だけど…!まぁ…まぁぁ゛あ゛~~………!!」
私の頭を踏んだまま、梨亜は片手で自分の顔を押さえ、酷く、ひどーく心の底から悔しそうな声で唸る。
その苦しげな唸り声は梨亜の心の軋みを表すもの――だとは思うのですが、…なぜにお顔が赤いのか。
なんです?そんなにヤバい案件なのコレ?!!?
「ちょ、梨亜?!なんなん?!なんなんなん?!一体なにが起きてるの?!?清吾さんはなんだってぇー??!」
さすがになにかこう、得体の知れない「怖さ」が恐ろしくなって、思わず「ギャア!」と梨亜に縋りつく――と、その私の勢いに踏ん張りがきかなかった梨亜はそのまま後ろへ倒れる。
安くうっすい絨毯なんぞでは、二人分の転倒の衝撃はまったく緩和できず、梨亜が床の上に倒れた瞬間ゴンっと鈍い音が鳴る。
梨亜は他所の人よりずっと頑丈――ではあるけれど、繊細な体の持ち主でもある。だからここはさっさと梨亜の上から退くのが最適解――なんだけれども、
「………なんじゃこれ。同じ脂肪とは思えんのだが」
「っ……そんなことはどうでもいいからさっさと退け…!」
「…いや、梨亜の胸で落ち着いたから――なにがどしたの」
最上級のクッションに身を預けたまま、ほわわーんとした気分で結局のところを――清護さんの思惑とやらを問う。
梨亜がここまで動揺する――というか荒れていることを考えると、相当清護さんの「思惑」とやらは大事なんだろう。
…でもまぁ…だよなぁ~…今更ながらなっちゃんのGOサイン付きだもんなぁ~…。
……ただソレ、ワシである必要ある?てか適任、他にいくらでもおるよな?
「梨亜」
「っ…なによ」
「もっと適任な人材見つければ解決じゃね?」
「…」
「……あら?」
我ながらとても建設的な提案をした――のに、梨亜の反応は芳しくない。っていうか、ない。
いや、ある意味ではある。だってさっきまで色んな感情が浮かんでいた顔が無表情になってるから。
…ぅん?これは……結構激おこぷんぷん丸?
「っ…いい加減に自分の魅力自覚しろってのよ――こンのバカがぁあぁああ!!!!」
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