バカの妄言大参事

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 ぅエホン――では、情報を改めよう。  今からX年前のこと――私が小学校中学年の時のことです。 いつも真面目に修行しないのに、いざ試合となれば兄弟子だろうと投げ飛ばし、勝どきを上げる(シャーオラする)ちんちくりん女子に、 謎の恐怖を感じた又従兄弟やら兄弟弟子たちから「お前女子だし!」と尤もっぽい屁理屈でハブられ――それでも祖父の兄(おじさん)の道場には通わねばならなかったいつかの日。 その日も男子(どこ)にも女子(そこ)にも混ざれず、蔵で発掘したご先祖様の武勇伝本を道場の縁側で読んでおったのです。 ――あ、そういえば長永(そっち)のご先祖様もちょいちょい出てたよ。今度読む? ――…その話あとでいいから本題。  うぃ――んで、その日も大体読書の、ちょろっと試合に混ぜてもらえるかなーってな感じでいたんだけど―― …唐突に、うちのおかーちゃんが見学者を連れてきたんだよねぇ。 しかも入門以下略じゃない、大人の意味での「見学」をしに来た――超絶イケメン御曹司を……!  お祖父(わがや)は堵火那当主(そうけ)(ぶんけ)――なんだけれども、本分(ぶどう)から離れた道場なし、なんだよね。 だから家系図的にはけっこー高い(イイ)トコにいる――んだけど、堵火那の本分ってか家業な武道からスッパリ足洗っちゃってるから「堵火那」としての扱いはまぁまぁ下の下なんだよねー。 ――ただ、堵火那含めて全体(・・)が傾いてる状況だから?バリバリのキャリアウーマンなうちのおかーちゃんが違う商売(ほうこう)で名前を売っちゃったんだよねー。  伸びしろのある企業を見つけては、情報解析だプログラミングだの、法律だ行政だのの専門家の力を借りて、企業に経営戦略を提案する――結果それで業績が上がれば相応の報酬をもらう。 ――いわゆるコンサルタントってヤツで、うちのおかーちゃんは堵火那の枠を越えた有名人になってんだよね。 ――あ、てか梨亜と知り合うきっかけがおかーちゃん(コレ)か。 ――その節と言わず、今でもお世話になってるわよ。  マジか。もう軌道に乗ったモンだとばか――ぅンぐ?! ――バカ言ってんじゃないわよ…!まだ借金だってェ……!!!  うん!わかった!!わかったゴメン!地雷踏み抜いた!もうこの話やめよう! 問題は問題だけど今の本題の問題は梨亜のことじゃなくてワシだから!! ………よし、よし、よし――落ち着いたネ?お話を戻すヨ?  企業コンサルタント?としてあちこちで仕事して、その都度一定の成果を上げてるうちのおかーちゃん―― ――だけに、ウン年前の時点でもうあちこちからお呼びかかってたんだよね――既に儲かってる会社からも。  本人曰く、伸びしろがある――厳密に言うと「業績の落ち込んでいる伸びしろのある企業」が得手らしいんだけど、 おかーちゃんの噂を聞きつけた得手以外(・・・・)からもお呼びがかかるようになりまして、うちのおかーちゃんってば一流企業(そーゆーところ)ともお付き合いのある一流のキャリアウーマン!になってしまいまして…。 ――…で、その娘に縁談が――って?  …だったらよかったんだけどネー。 んで、問題のあの日に戻るんだけど――  その日、どういう経緯でそういう話になったやら、連絡も無しにおかーちゃんが道場に連れてきたのが、 泣く子も知ってる大手コンビニ(フジハナマート)でお馴染みの藤霞コンツェルン――の御曹司・藤霞清護さん。 進歩に伴う改革を明晰な頭脳で計画し、巧みな話術で役員(うえ)を納得させ、そして誠実さで一般社員(した)の信頼を得た―― ――パーフェクトイケメン御曹司!それが清護さん!なのです!  …ただまぁ、その時はそんな凄いお人だとは全く知らなかったんだけどね。 なーにせこちとら小学生――親の仕事さえざっくりしか理解してないんだから、他所の企業(おうち)のことなんてアウトオブ眼中だよネー。 ――なもんで、その時の私の第一印象?ってのか、真っ先に思った事は「イケメンや!!」でした。  そんなワケで唐突にイケメンを連れてきた――正しくは仕事先の役員さんを案内するために道場へやってきたおかーちゃん。 これまでにおかーちゃんが仕事先の人を道場に連れてきたことなんてなかったし、 もしワシが顔を合わせるとすれば、おっさん、おっさん、おじいちゃん挟んでおっさん――の中年ピーポーばっかりでさ。 だからおかーちゃんがイケメンと一緒居るなんて、これはなんかもう我が家的に一大事級の物凄いコトが起きてる――って思ったんだよね。 こう、我が家の根底が揺るぐ天変地異級(レベル)の大事件――おかーちゃんの再婚、とかネ! ――あー……そうか…、若菜さんの方が近いのか…歳。  そうそう。あの時点で清護さん既に二十代半ばだったからね―― …ある意味でそう思いたくはなかったけど、まず「再婚」って文字が浮かんだんだ。  …ぶっちゃけ、我が儘(れいせい)になったら今でもイヤなんだけどね――父親ができる、なんて。 でもさ?心の底では、おかーちゃんには幸せになってもらいたいんだよ――辛いことも一っ風呂浴びれば吹っ切れる超絶強靭メンタルの持ち主であるおかーちゃん、とはいえ。  だからさ、案内の通り道(みちすがら)おかーちゃんに「コレがうちの娘」って紹介されたらさ―― 「初めまして!結婚してください!!」
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