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「で、すんの? しねーの?」
慈人の頬が俄かに赤くなっているのは、酒の所為だろうか。
慈人にじっと見つめられ、坂下は身体を起こしてゆっくりとソファに乗り上げた。
「じゃあ、辻村くんが彼女ってことで」
「キスすんのに女も男もあるかよ」
「キモチの問題だって!」
「んー……じゃあ、俺はお前の彼女で……チカって名前な!」
「そんな設定いらないよ」
「いーから! 俺は今からチカ! はい、呼んで!」
言いながら、慈人は坂下の袖を掴んで軽く引く。
「ち、チカ……さん」
妙な緊張感を覚えながら向き合って、慈人がずいと坂下に近付いた。バクバクと煩い心臓には気付かないフリをして。
色素の薄い茶色い瞳が目蓋の奥に隠れるのを合図に、坂下は慈人の唇に触れるだけのキスをする。
女の子と変わらない、柔らかな感触。
あり得ないくらい心臓がバクバク煩く鳴っているのを、慈人に気付かれてしまわないか心配になってしまう。
すっ、と細く目を開けた慈人は薄茶の双眸で、未だ戸惑う坂下の目を睨み付けた。
「そんなんで満足出来んのかよ」
「……これ以上は、だめだって」
触れてしまえば、欲が出る。
慈人の事を、もっと、もっと、と求めてしまいそうで。
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