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2.壊れた世界
地上へ出るとそこに人の姿はいなかった。
誰一人としていないその場所には、夜の闇に無意味に光る電灯があるだけだった。
僕ら二人は、この状況が美しいと思った。街の中心部の方では、オレンジ色に輝く光がちらつき遅れて音が聞こえる。
「私の反逆。この世界の...」
「お前が...か?」
「なんちゃって」
この状況でまさか、ボケられるとは思ってなかった。オイっとツッコミを入れると凛は、笑った。
「これを仕組んだのはもっと偉い人。私は情報を聞いて利用した。そして君が私を助けた。 それだけなんだよ」
「今更なんだけど、君がここから出て大丈夫なのかなーって」
「バレたらやばいねっ!」
顔を見合わせた僕ら。そしてタイミングよく後ろから声が聞こえる。
「君たち避難勧告出てるよー」
「警察官!」
悪いことはしてない?のに逃げてしまう 横を見れば楽しそうな凛。僕はといえば必死な思いだ。
「まじめに走れって」
「そろそろ限界ですね」
言われてみれば、彼女は運動らしいことはほとんどしていない。つまり、限界も早い
「もう少しだから...」
「ギブ」
倒れそうな彼女を持ち上げて近くの裏路地へ逃げた。物陰に隠れると警察官はあきらめて戻っていった。
「私は...」
凛がそう言いかけた時だった。背後で男の渋い声が聞こえた。
「はいそこまでだ」
微笑む男は僕の胸倉をつかんで持ち上げた。
「君はすごいなぁ 政府職員が極秘情報を持ち出すなんてね」
「...」
無言でいると、男は声を出して笑った。
「よくやった。彼女の能力を我々も欲しがっていたんだ。君のこともだ」
手を離されて落ちる僕の横で凛は、無表情だった。
「誰?警察の人かな」
「あたり。でも、ちょっとちがう」
そういうと、手帳を胸ポケットから取り出して僕らに見せてきた。
<湯之上 理 YUNOKAMI KOTOWARI>
警察情報局 現実世界発掘調査課 代表者
「警察情報局?何それ」
「知らないのは当然だ。非公開組織で政府のなかでも一部の良識あるものによって作られたものだからな。そして、この世界の反逆者であり善良な世界の執行人とでも言おうか」
ここでは話をしようがないから。そういうと、湯之上は近くの駐車場の車を起動させた。
「いつからここに?」
「2時間前から」
「敵兵は...?」
「目の前で見てたけどねぇ 気付かなかったみたいよ」
電気モーターの音が静かに響く。新橋の駅前の地下駐車場に車は入り止まった。
「ここから少し歩くんだ」
そのまま彼の後ろを二人でついていくと、柱の前で立ち止まった。
「ここだ」
もちろんただの柱だ。映画で見た気がするような状況だ。駅ではなく地下駐車場だけど
「ここに走って行けと?」
「行けっ!」
言われるがままに走っていくと鈍い音が聞こえて頭に響く
「ごめんね 本当にやるとは」
「笑いながら言わないでくださいよ」
鼻血を出しながら地面に座り込む僕に湯之上はそう言った。凛は、口を開けて僕を見ている。
「簡単に血って出るんだ」
僕と湯之上は顔を見合わせた。もちろん、そんなことも知らないのかという意味だ。
「凛さん?人を殴ってはいけませんよ」
「なんで?」
***
地上に出て、有楽町の方へと歩いていく。高架下の薄暗い通路を通り抜けていくと細い分岐路に入っていく。すると、一瞬の刺激を感じて目を閉じた。
でも、すぐに目を開くと目の前には多くの人が目の前を歩いている。夜だから、酒に酔ったサラリーマンが路地の居酒屋で盛り上がっていた。
「ここは?」
「ここが本当の世界。ようこそ 東京へ。そして、モルモットな君たちにとっては15年ぶりのことだね」
それから、少し歩いた。
高層ビルには夜でも光がたくさん光人が動いているのが見える。
その中の一つのビルに入ると、警察の制服姿の職員がたくさんいる。その中を通り抜けると、ビル裏とビル裏をつなぐ連絡通路がある。
「ここから先が、君たちの職場であり 住処だ。これからは、君たちはこの世界に住み生きていく。 今までいたあの世界を監視して 真の目的 を遂行すべく任務に就いてもらう」
「真の目的?」
凛がそう口に出すと、湯之上は口元を締めうなずく。
「まだ秘密だ。時期にわかるさ いやでもね」
もう一つのビルへと入るとそこには、温かい空間が広がっていた。
***
「君たちは相部屋になる。明日詳しい話をするから、ひとまず寝るなりしてくれ。着替えはそこにあるから。」
「はい...僕の荷物とかは?」
「明日取りに行けばいいだろ」
ホテルの一室のような部屋には、基本的なものはすべてそろっていた。風呂、トイレはもちろんのこと台所まである。
「私、初めて”普通”の部屋っていうのに来たわ」
「普通ではないけどね」
うれしいのか端から端へ無意味に駆け回りベッドにジャンプする凛に僕はうれしさというか、安心感があった。
急に...安心したからか眠気が来る。
「眠いから寝る」
ベッドに僕も乗り込んで目を閉じた...
「夢か?」
生ぬるい空気が気味悪い。夜...いや夕暮れ?朝焼け そんな空間の中で僕は立っている。目の前には、凛がいる。
でも、
凛はすぐに歩いて行った。追いかけようとするけど足が動かない。冷たい。
「足枷?」
そして、景色は一気に変わってコンクリートの壁・天井の部屋へ
「出して... どこなんだ!」
防犯カメラが僕を見ている。怖い
「...」
気が付けば涙を流して頭をかき乱している僕がいた。それを喜ぶ誰かがいるのだろうか。声が聞こえる。
「君は面白い。もっと怖がるんだ」
扉のない部屋で、蛍光灯がちらつく。恐怖で壁にぶつかりまくるが、何も起こらない。数回・数十回と繰り返すうちに感覚が泣くなり僕は倒れた。
鼻血が顔を伝ってくる。
「ニガイ」
ブラックアウト
***
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