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1.機械のにおいがする
私には家族の記憶が曖昧だ。
私のほかに姉がいた気がするけど、気が付けば私の周りには同世代の子供たちだけがいる空間にいた。グループを作り始めた彼らに私は「入れて」が言えなくて自然と一人だったっけ。
それでも、私のように一人の人はたくさんいた。
なのに...
一人が消えて次々と スタンドアロンの子供たちはいなくなったりグループに入ったりして私だけが取り残されていた。
一人で食べる食事の向こうで、ワイワイとする彼ら。
今さら仲間に加わろうと思っても拒否されるのはいうまでもなかった。
それでも
気が付けば私は20歳になっていた。
「つまらない日常だ」
そう囁いた私のことを気にする人はいない。
サードパーティー
ゴーグルを外し、疲れた体を伸ばす。 椅子をぐるぐる回ればグループごとに違うユニフォームに私は自分の無地の服を見る。
集団こそが絶対の中で、私だけは一人だった。
異質ともいえるこの空間で私は言葉を発することはまずない。
時折こっそりとネットワークのファイアウォールを盗み出て話す知らない地上の人たちとの会話が唯一のコミュニケーションだ。
さて、
この世界について説明しないとね。
私は凪葉凛。20歳 ここは、地下深くにあるらしい大きな空間だ。ここには生活に必要なものはすべてそろっており、私のような若者が50人ほどいる。たまに来る大人といわれる人たちは物資の補給とかをするだけで私たちを監視しているわけでもない。
5歳のころからいると思うが、最初はもっとたくさん100人以上いた気がする。だけど日を追うごとに減り、好奇心を持てば持つほど消えていった。扉が存在しないこの空間からは出ることはできない。
大人たちがどこから来るのかも知らないから、私たちは籠の中の鳥と同じだ。
そして、私たちの存在理由。それは電子空間で敵と戦うこと。それは、私たちが精神が壊れるまで永遠と行われる。
私のようにここからネット上からでも抜け出さないまじめな人ほど消耗されてここからいなくなる。
気が付けば私たちには、たたくということ以外の自由は存在しないらしい。加えて、地上の人から聞けば、私たちはすでに死んだ者として登録されており、この場所自体が、極秘場所であるらしく詳細は一切ないのだそうだ。金持ちの遊びだったり、国家間をかけた戦いだとか言われているそうだ。
戦う私たちを地上では、「zero」といわれているのだという
***
「あの少女かわいかった」
「おっ青年 恋かな?」
「えぇ 同い年で、地下の...」
僕が、そういった瞬間話しかけてきたおじさんは顔をこわばらせた。
「あきらめな」
そうとだけ言うと、何も言わずに立ち去って行った。
いつから始まったのかは知らないが、地下にはこの国や一部の人間のために育てられ自由と精神を犠牲にして戦う者がいる。
そんな彼ら・彼女らのおかれている状況は地上にいる僕らには伝えられていない。
ただただ、毎週金曜日と土曜日の深夜に行われるゲームとしか思われていないのだ。それを見る僕らと戦う彼らは全く逆といっていいほどの生活をしている。
そして、僕 葉波みなとは、政府の職員。地下で生きている人間の飼育員だ。
「さっきは悪かったな」
業務用のエレベーターの中でさっきのおじさんがそう言った。悪気はなかった。ただ、犠牲になっている彼らには自由がなく僕との当たり前の恋愛という物もできないと知っていたからだという。
「気にしないでください。寝言ですよ」
地下深く大深度にまで来ると、かすかに機械のにおいがする。コンピュータ独特の基盤のにおいだろう。
空気の循環ファンと同時に冷却用空気が排出されているのだ。
「さて、ここからは無言でいるようにな」
「はい」
顔が見えないようにと、フルフェイスのガスマスクをつけて扉を開ける。そこは地下にクラス者たちの部屋の一つでダミーとしてある。
そこから、物資を補給し ごみなどの廃棄物を回収する。
監視カメラは見えないようになっているが、何もない柱に向かって手を振る。
<<帰ろう>>
そう合図を受けて僕はごみを持ってエレベーター籠に乗り込む。
モータ音が響き徐々に空気を感じる。マスクを外して空気を吸い込む
「私はいつも複雑な気持ちだよ。息子たちと同い年の子供たちが、戦っているんだ。戦う以外のすべてを失い、そして管理される。地下にいるから僕らのような人物しか知らない」
息子を見るたびに。僕を見るたびに そう思うのだそうだ。
<当たり前の青春を楽しめないなんて>
「そういえば、ここから脱出しようとした人はいないんですか?」
「いない。生きて出たという条件ならね」
***
>君は、その場所から出たいと思うのか
<えぇ...いや いいえ でも
>わからない?
<わからない。地上に出たところで居場所がないから
家。僕はネット上で地下の少女と話をしていた。彼女は、地下の人たちの中でもハッキングやクラッキングが得意らしく、こうしてコミュニケーションをとってもばれないのだという。
そして、彼女こそ僕が一目惚れたした少女だ。
だが、僕からはそのことは言えないのだ。ネットワークが監視されているが故の縛りなのだ。
>君は、毎日が楽しい?
<つまらない・楽しい という概念が分からない
<それよりも
彼女がそう言うと、一枚の画像が送られた。
>なんのファイル?
<画像だよ。このメッセージと画像は監視できないようにしてあるから
画像を開く。すると、そこには監視カメラにピースをする彼女がいた。一人だけ、孤島のようにボッチでいる。机もグループごとに分かれているらしく、彼女はどこにも属してはいないようだ。
>助けてあげたい
<監視されているんでしょ。このメッセージだってすぐ消したから大丈夫だけど...危険よ
>そうだね。機会を待つよ
機会を待つ。そうだな...地上も何かしらの混乱が起これば と思うも、僕には何にも考えはなかった。
でも、運はよかったらしい
<2034年4月28日。東京區を中心に大規模な情報攻撃が行われています。また、一部の情報では他国からの攻撃が行われているという情報もあり、政府は避難勧告を発令し...>
休憩室のテレビでアナウンサーがそう言いかけたとたんに真っ暗な画面に
<シェルターへ逃げて!>
と表示された。僕は、職員であるからネットを通じて地上の映像を見るといたるところで煙が上がり確かに攻撃を受けているようだった。
軍が戦い、住民が逃げ回っている。
「みなと大変なことが起こったなぁ これはあれだ!」
「えっと...昨日の戦いで負けた国ですか?」
「そうそう。悔しかったんだな」
そんな平和ボケな話ではないと思っていたのだが、僕は偶然にもこの前の出来事と計画を思い出した。
<そうだ。彼女を助け出そう 彼女を自由にしてあげたい>
それが、彼女にとって良いことなのか 自分のためであるのか。 わからないが、僕の中でボクが「すべき」であると直感的に感じていた。
「トイレ行ってきます」
「おぉ」
トイレの個室で僕は端末で彼女に話しかけた。
>地上の出来事知っているか?
<えぇ この前のゲームで私たちに負けたからでしょ
>それに乗じて君を助けたい
少しの間があいた。
>私、誰かと一緒にいたい。君は、私に一緒にいてくれるの?
<もちろん
>敵兵を呼び寄せる。一人を倒して彼からに紛れて私のところへ来てよ
それからトイレを出て、休憩室に戻った。
電話で震えるようにしているおじさんをみてすぐに敵が攻め込んだことが分かった。
「様子見てきます」
「待て ここにいるんだ」
「嫌でーす」
扉を開けて地上へ通じるエレベーターホールまで来るとエレベーターのインジゲーターが徐々にこのフロアに迫っていることが分かった。
そこで近くの非常階段に隠れて彼らを迎えることにした。
上の方からは、非常階段を通じて降りてくる人声も聞こえる。
「ここですよ。行きましょう!」
そういって階段を降り扉を開けはいる彼らは20人。僕は最後尾にいた兵士を捕まえて扉を閉めた。
そこから、気絶させて僕はその兵士の服を着た。端末で彼女にメッセージを送る。
>用意はできた
<待ってる
扉を開けて後を追う
「どこだ!!」
聞こえる声のもとへついていった。
端の部屋から順々に入っていき、おじさんたちがいる部屋へと着いた。そこには、手を挙げているおじさんたちがいた。
「俺らの敵はココか?」
敵兵の質問に、一人たりとも口を開かなかった。恐怖? 否、絶対秘密だからだ。
「これでも?」
銃を取り出した。それでもなお、黙り続けるからなのか、足に2発を撃ち込んだ。
「わかった... そこの扉を開けていける」
「よし行くぞ」
マスク越しで顔が見えないようで、おじさんたちは端により黙ってみているだけだった。
それからエレベーターに乗り込んだ。
地下に着くと、兵士たちはマスクを外し彼女らがいる方へと向かっていた。手には握られた銃が見えた。
僕は、様子を見ながらも端末から彼女にメッセージを送った。
>銃を持っている 隠れろ
<見えてる。私は、すぐ後ろにいるよ
後ろを振り向くとそこには誰もいない。ただ、あるのは白い箱だけ...
「まさかな」
蓋を持ち上げると彼女がいた。近くで見ると彼女は白く華奢できれいだった。
「こんにちは少女」
「凛よ 名前くらい覚えてね みなと?」
敵はといえば、先ほどから銃を撃ち始めていた。聞こえる声はもう人間ではないようだ。
「逃げましょう。ここ以外の出口はないんでしょ?」
「あぁ いいのか きみ”たち”は?」
「いいのよ」
それから僕らは、地上へと昇って行った。
昇り切ったら彼女はエレベーターのケーブルを切ってというから、銃で切った。
勢いよく落ちる籠と落ちる音がしたが、すぐに扉を閉めた。
***
「彼らは?」
「おじさんたち」
僕の顔が見えたのかおじさんたちは微笑んだ。だが、すぐに僕の服装に気づいて顔が引きつる。
「敵兵じゃないよ。彼女を救うために紛れ込んだんですよ」
「そうか...」
それ以上は何も言わないおじさんたちをよそに僕は、重ねてきていた服を脱ぎ棄てて地上へと向かった。
「地上は荒れ果ててるかもなぁ」
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