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一
江戸の町並みは初夏の日差しに照らされていて、忙しなく行き交う人々の肌には薄らと汗が滲んでいる。
日本橋の本小田原町にある[わたりや]の主、安兵衛も干し柿のような肌がぬらりと照り光っている。だがそれは暑さのためではなく、持ち込まれた依頼の難しさに苦慮していたからであった。
[わたりや]は駕籠屋であり、人々の求めに応じて駕籠とそれを担ぐ駕籠かきを派遣するのが商売である。現代のタクシー会社のようなものだろうか。
しかしこの安兵衛、裏へ回ると[黒業師]の元締として、法では救うことのできない人々からの依頼を受け付けている。それは慈善事業ではなく、依頼料はそれなりのものを取るし、必要であれば殺人さえも請け負う。それが、[黒業師]の世界なのだ。
さて、[わたりや]の奥にある一室では、安兵衛と、同じくらいの歳だろうか、これもまた皺だらけの顔をした老爺が向かい合って座っていた。
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