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「治りますか、涼十郎は?」 「馬鹿言うな。あんなの、生きてるだけでも不思議なくらいだ。胃の腑と喉に、腫れ物ができてる。別の生き物に寄生して宿主を殺す動物や植物があるが、それと似たようなものだな。しかもあの腫れ物は、身体の中で増殖するんだ。きっと、今教えた二カ所以外にも、別の腫れ物ができてるよ」 「そんな」  宗右衛門の顔が絶望に染まった。現代でいう、ガンのようなものであろう。外科手術や放射線治療の発達していないこの時代、打つ手はないに等しい。 「それで、お前さんは何を飲ませたんです?」 「一応、腫れ物に効果のありそうな薬を。それと、体力を回復させるための、強壮薬を混ぜた。どうなるかは分からない。何しろ、あそこまで酷いのは見たことがないから」 「そうですか。じゃあ、お前さんはもう手を引きますか?」  問われて、早雲は安兵衛を見つめ返した。自分に出来るだけのことはした。義理は果たした。そう判断してもいい。だが、脳裏に引っかかるものがあった。  眼光。涼十郎の、閉じそうな瞼の隙間から覗く、眼の光り。それが、早雲の心を波立たせた。 「いや。どうせ別の蘭方医なんかを頼ったって、結果は同じだ。だったら、俺が最後まで、悪あがきをさせてもらいたい。もしかしたら、効き目のある薬が作れるかもしれないしね」 「涼十郎さんの身体で、薬を試そうって言うんですか?」 「怒るなよ。薬なんてみんな、最初は試しから始まるんだ。もちろん、人間で試す前に段階を踏むけど、今はそんな時間もない。あれじゃ、明日まで生きてるかも分からないんだ」 「だからって……」  渋い顔をする安兵衛の言葉を、宗右衛門が遮った。
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