6人が本棚に入れています
本棚に追加
「治りますか、涼十郎は?」
「馬鹿言うな。あんなの、生きてるだけでも不思議なくらいだ。胃の腑と喉に、腫れ物ができてる。別の生き物に寄生して宿主を殺す動物や植物があるが、それと似たようなものだな。しかもあの腫れ物は、身体の中で増殖するんだ。きっと、今教えた二カ所以外にも、別の腫れ物ができてるよ」
「そんな」
宗右衛門の顔が絶望に染まった。現代でいう、ガンのようなものであろう。外科手術や放射線治療の発達していないこの時代、打つ手はないに等しい。
「それで、お前さんは何を飲ませたんです?」
「一応、腫れ物に効果のありそうな薬を。それと、体力を回復させるための、強壮薬を混ぜた。どうなるかは分からない。何しろ、あそこまで酷いのは見たことがないから」
「そうですか。じゃあ、お前さんはもう手を引きますか?」
問われて、早雲は安兵衛を見つめ返した。自分に出来るだけのことはした。義理は果たした。そう判断してもいい。だが、脳裏に引っかかるものがあった。
眼光。涼十郎の、閉じそうな瞼の隙間から覗く、眼の光り。それが、早雲の心を波立たせた。
「いや。どうせ別の蘭方医なんかを頼ったって、結果は同じだ。だったら、俺が最後まで、悪あがきをさせてもらいたい。もしかしたら、効き目のある薬が作れるかもしれないしね」
「涼十郎さんの身体で、薬を試そうって言うんですか?」
「怒るなよ。薬なんてみんな、最初は試しから始まるんだ。もちろん、人間で試す前に段階を踏むけど、今はそんな時間もない。あれじゃ、明日まで生きてるかも分からないんだ」
「だからって……」
渋い顔をする安兵衛の言葉を、宗右衛門が遮った。
最初のコメントを投稿しよう!