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「お願いだ、早雲さん。少しでも可能性があるのなら、新たな薬というのに賭けてみたい。涼十郎もきっと、そう言うだろう」 「宗右衛門さん、いいんですね?」 「ええ」  安兵衛に向かって、宗右衛門が頷く。 「俺が使うものが、あの人にとって薬になるか毒になるか。それは、ほとんど運と言ってもいい。それでも承知してもらえるんなら、俺は全力を尽くすよ」  確かめるような視線を送ると、宗右衛門は老人らしからぬギラついた眼をして、頭を下げた。 「よし。そういえば、次の舞台はいつなんだ?」 「あと、二十と三日後です。七月の一日」 「しかし、稽古のための時間も必要だろう?」 「それは、さほど問題はないかと。演目は涼十郎が何度も演じてきたものですし、全体の通しを前日にやるだけで、あいつなら大丈夫なはずです」 「へえ。そういうものか」  となると、いまから二十二日で、涼十郎を舞台に立てるように回復させなければならない。 「分かった。じゃあ俺たちは、一度失礼させてもらうよ。状態を見て、買い足したくなった薬の材料もある。それらを揃えたら、ここに泊まり込みでやらせてもらう」 「はい。よろしくお願いいたします」  再び深々と頭を下げた宗右衛門と別れ、早雲は安兵衛を連れて、変装をし直してから寮を出た。時間を空けて別々に出て、近くの蕎麦屋の座敷で落ち合う。ここで変装を解くのだ。ついでに、腹ごしらえもすればいい。
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