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「起きていたのか」 「眠れば、そのまま死んでしまう。そんな気がする」 「そのときは、そのときだ」  どぶ川のような声で、涼十郎が笑った。それから、少し咳き込む。 「この喉、切り裂いて、邪魔な腫れ物を取っちまいたい」 「死ぬだけだ」 「こんな声じゃ、死んでるようなものだ」 「生きてるよ。心の臓は動いてる」 「それは、俺が、生きていることに、ならない」  また咳き込んだ。木枯らしのような音が、口から漏れ聞こえてくる。それでも、涼十郎は上体を起こした。 「俺を、舞台に立たせてくれ」 「なぜ、そう拘る?安静にしてろよ」 「布団の上、で、死ぬのは、嫌だ。俺は、俺として、村雨屋涼十郎として、死にたい」  途切れ途切れの、壊れた楽器が奏でるような声。それなのに、震えるような迫力がある。 「ふざけるなよ、あんた。俺はあんたを、出来ることなら治すよう頼まれてここにいるんだ。それを、わざわざ命を縮めるような真似、させられるわけないだろ」 「縮めるもなにも、舞台に立たない俺に、命など、ない」 「分からないな、役者なんて」 「簡単に、理解されるような、理屈で芝居はできんよ、ふ、ふふ」  涼十郎が息を切らしながら笑ったとき、美津の怒鳴り声が聞こえてきた。
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