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「なあ、なんとかならんだろうか?」
「しかしですな……」
すがりつくように頼み込んでいるのは、芝居の興業を商いとする[村雨屋]の座長、宗右衛門である。依頼というのは、[村雨屋]の看板役者、村雨涼十郎が患っている病を治して欲しい、とのことだった。それも、公にすることなく、という条件付きだ。
「[村雨屋]さんほどの大きな座なら、大名お抱えの名医なども呼ぶことができるのでは?」
「それでは、涼十郎が病に伏せていることが世間に知られてしまう。人様には知られず、というのが、あいつの望みでもあるんだ」
涼十郎が見栄っ張りで頑固な性格をしているという噂は、安兵衛の耳にも届くほど有名だ。これほどまでとは、と安兵衛は唇をへの字に歪めた。
「申し訳ないが、私の抱える黒業師には、医者がおりませんで」
「そこを、なんとか。このままでは、次の舞台までに間に合わんのだ」
「ふうむ。恩ある宗右衛門さんの頼みだから、どうにかして差し上げたいのは山々なのですが。……薬に詳しい男がいますが、果たしてお役に立てるかどうか」
「構わん。僅かでも可能性があるなら、頼みたい」
「はあ……、では」
渋い顔をして頷くと、宗右衛門は泣きそうな顔で頭を下げた。
「恩に着る。それで、いくら出せばいい?」
「いえ。必ず治せるかは分かりませんし、それに、宗右衛門さんからお金を頂くなど、そんなこと……」
「馬鹿。形だけでも、こういうことはきちんとしておくことだ。私はあくまで、商売人としてお前さんを頼みにして来ているんだ」
そう言って、宗右衛門は小判の切り餅を二つ、ぽんと懐から出した。つまり、五十両の大金である。
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