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 安兵衛の顔を見ると、[あかね]の早雲(そううん)は、あからさまに嫌な顔をした。巣鴨村から千住宿の外れに移ってきた早雲だが、以前と変わらないような家に住んでいる。木立の中に潜むように建っている一軒家。これが好みなのだろうと、安兵衛は勝手に納得した。 「仕事は、しないよ」 「まだ、何も言っちゃいないでしょう」  苦笑しても、早雲は表情を緩めることなく、家の奥に戻っていった。薬草をすり潰している途中だったらしい。ごりごりと、石が擦れ合う音が聞こえてきた。  縁に腰掛け、 「殺しじゃありません。病人を一人、診てやって欲しいだけで」 「俺は医者じゃないんだ。それに、黒業の方は秋まで休むと、言ったはずだけど」 「そこを曲げて、頼みますよ」  早雲は薬の知識に長けた[黒業師]である。表の稼業は薬の調合などだが、裏では自らの手で作った毒を使い、訊問や殺害などを行う。  まだ二十歳をいくつか過ぎただけの、さっぱりとした風貌の若者だが、毒を使うときの彼は、ぞっとするような空気を発する。
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