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「元締。俺が黒業で使うのは毒だ。少なくとも、自分ではそう思ってる。薬も毒も、効果の利害が違うだけで本質は同じだがね。ただ、俺は毒を使ってる。人を助けるんじゃない。人を殺すためのものを使う[黒業師]なんだ。それが、医者の真似事なんてできるかよ」
「[あかね]。お前さんは確かに、的には毒を使う。ただ、その毒のおかげで、的が死んだおかげで救われた人が、これまでに大勢いるんです。そういう意味では、お前さんが使ったのは薬と言えるんじゃないですかね」
「下らない話だ」
早雲が鼻で笑う。安兵衛も微笑を浮かべながら頷いた。
「そうさ。この世は、毒が薬にもなれば、薬が毒にもなってしまう。お前さんが扱うものだけの話じゃない。万事が全てそんな具合ですよ。そんな世の中で、どっちかに拘るなんて、下らないことこの上ない」
「拘らなきゃ、自分が保てない気がする。自分の行ないが人のためだ、なんてことを考えてしまったら、俺はいずれ化け物になってしまう。そんな気がするんだよ」
口もとだけで笑いながら喋る早雲の声色が、どこか幼く、そして暗くなった。
「それなら、病人に毒を使う気でやればいい。考えてみてくださいよ。死のうとしてる身体を、無理矢理治すんです。見方によれば、これも立派な毒でしょう?」
「屁理屈が過ぎるな」
吹き出し、肩を震わせて笑う。安兵衛も照れるように笑った。
ひとしきり笑い合った後、
「分かったよ。ただ、俺に出来ることなんて限られてる。期待してもらっても困るからな」
「ありがとうよ。いや、今回の依頼は恩義がある方からのものでね。どうしても、引き受けて欲しかったんです」
「顔が広いと、いろんな義理が増えて厄介だろ?」
お茶を注いだ湯飲みを、安兵衛の側に置く。
「そりゃあ、私は商人ですから、仕方のないことで。お前さんみたいに仙人のような暮らしをしていちゃ、表も裏も成り立ちませんよ」
「ふ、仙人か」
粉末状にした薬草を混ぜ始めていた早雲が、自嘲気味に呟いた。
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