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「いや、重かった」
門の内側に入るなり、腰に差していた刀を抜きながら早雲が息をついた。
「匕首とは比べものにならないでしょう。かなり歩きにくそうにされていましたよ」
少し遅れて入ってきた安兵衛が、くっくと笑った。こちらは職人風の格好で、肩に担いだ道具箱の中に、早雲の用意した薬などが一式入っている。
「だから竹光にしてくれと言ったんだ。周りに不審がられたら、台無しじゃないか」
「心配はいりませんよ。さすがは[あかね]。素人目には、怪しむ隙はありませんでしたから」
「やっぱり、俺が職人の格好をすれば良かったんじゃないか。元締の歳で大工は似合わないだろ?」
「総髪の職人の方が、もっと不自然ですよ」
「ちっ」
含み笑いを残したまま、安兵衛が引き戸を開けた。
「宗右衛門さん。私です」
声をかけると、ばたばたと足音を響かせながら、宗右衛門が姿を現した。早雲を見るなり、
「そちらが、例の?」
「ええ。浪人に変装させてはいますが、本業は薬職人です。[あかね]の早雲と、我々の世界では呼ばれております」
「へえ。まさか、こんなに若い方だとは」
宗右衛門の顔に落胆や早雲を見下すような色はない。貫禄を皺にして刻み込んだ顔に、恐縮の気配すら滲ませている。
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