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「言っておくが、俺は医者じゃないし、人を治すのは専門外だ。期待はしないでくれよ」 「まあ、まずは涼十郎を診てやってください」  案内された部屋には、男が一人布団に寝かされていて、その脇に若い女が跪いていた。 「これが……」   宗右衛門が低い声で、それだけ言った。  布団の上に横たえられた痩せぎすの男。うっすらと開いた目で、訪れた早雲と安兵衛を力なく見上げている。話では三十代半ばと聞いていたが、病に疲弊した顔はずっと老けて見える。これが、江戸で評判の村雨屋涼十郎なのか。 「薬屋だ。あんたを診てくれと、頼まれた」  短く言うと、安兵衛から道具箱を受け取り、女の反対側にしゃがみ込んだ。 「どこが悪いのか、どんな風に悪いのか、教えてくれるか?」  聞いても、涼十郎は口を微かに動かしただけだった。風のような音が聞こえただけだ。 「あの、涼十郎様は声が……」  代わりに答えるように、若い女が口を開いた。 「あんたは?」 「美津(みつ)と申します。[村雨屋]の下働きをしておりましたが、今は涼十郎様の看病を任されております。他の[村雨屋]の方々には、実家の母が病に倒れたので看病に行くと言ってあります」  歯切れの良い口調だが、端々に不安の色が混じっている。  小さな顔に黒目の大きな目。鼻と口も小さくて、子どもっぽい雰囲気がある。
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