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第27話 六の巫女、アイラ
それから約二週間後、北辰神社。
「ごめん、言っちゃ悪いんだけどさ……」と、ゴンが言った。反応に困ると言わんばかりに上を向いていた尻尾が垂れ下がっていく。「ちょっと……意味がわからないよ?」
「…………」
狐に「意味がわからない」と言われるのはぼくとしても心外だった。しかし、正直言えばぼくにも意味がわからないのだ。だからそれを言われても何も返しようがない。
押し黙ったぼくを見つめたゴンは、
「だってさあ」と、すぐに表情も困惑顔に変えた。「お互いに『好き』を確認し合ったんでしょ?」
「……うん」
対するぼくの返事は非常に曖昧だったが、ゴンはそこには触れずに「それで?」と、言った。「いつ、子供は生まれるの?」
すぐにぼくは首を振った。「生まれないよ。何言っちゃってるの?」
「なんで?」と、ますます困ったようにゴンの表情が崩れていく。「田中くんはその女性のことが好きなんだよね?」
「そうだけど」
「それなら子作りするんだよね?」
「だから」と、ぼくはもう一度首を振った。「どうしてゴンはすぐにそっちの方向に話を持って行ってしまうのかなあ……?」
「? それなら、なんだっての?」ゴンは顰めた顔のまま首を傾げる。「君はその『好き』って気持ちをどうしていきたいわけ?」
「…………」
それがわかっていたら、今頃こんな苦労はしていないはずだ。
と、そんな風には思う。
しかし、言葉では答えられずにぼくは沈黙した。代わり口を開いたのはアイラだ。「重症ですわ! 重症ですの!」
「どういうことなの?」と、ゴンはまだ困惑している。「子供を作らない以外の『好き』ってなんなの?」
するとアイラはむすっと頬を膨らませ、きりっとした表情で狐の神使を睨みつけて言う。
「ゴンさま、そこは違いますのよ!」
「違う?」と、ゴン
「ええ、違いますの!」と、アイラ。「物事には順番と段取りがございますのよ!」
「なにそれ?」
「ですから、人間の男女というものはそもそもが……」
どうやらゴンとアイラはぼくをそっちのけにする気らしい。
ああ、とぼくは投げやりな気持ちになって天井を見上げた。サツキに何を言われたところでこれが癖なんだ、白紙とわかっていても見つめてしまう。そして溜息をつきつつ顳顬を指で揉んだ。
「ゴンにしつこく問われたから答えたけど、答えなきゃよかったよ。ほんと」
投げやりな気持ちで後悔の言葉を呟いた。
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