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照れてる宮内さんが可愛い件
寒いのか暖かいのか微妙な気温。
私、宮内春菜46歳。32歳で結婚して、旦那は半年後他界。病名は不明で解剖したいと病院側から言われたが、綺麗な状態で見送りたいとの義両親の意向もあり、綺麗な状態のまま見送られた。
「まみこ、お腹すいたぁ」
部活帰りの娘、かんながスクールバッグとラケットを床に投げるように置いた。
「また、まみこって呼ぶんだから」
娘のかんなは中1、テニス部である。
今日はグラタンよと言うとかんなは大喜び。早く早くと席立ててくる。
「焼くからちょっと待ってね」と言いながらグラタン皿をオーブンに入れる。
ピン!と軽い音を立ててスマホが鳴った。
スマホを見ると、彼氏の土屋敦からだった。
「明日会える?」
どきっとして、きゅんとして。二つ返事で「会えるよ」と打ち込んだ。
この歳になって久しぶりの恋。
「早く、グラターン」
「はいはーい♪」と顔がにやけてるのがわかるようだった。
「ありがとうございます」
私はお客様をお見送りした。
仕事は婦人服の販売。デパートに派遣で週5日働いている。
お昼休みになった。
ロッカーに向かうとすぐに透明バッグにスマホや財布などを詰めていそいそと食堂へ向かった。
今日は何食べようかしら。と迷っていると、同じ階のペトロというフォーマル 店員の辻優子が声をかけてきた。
「おはよう!今日は早番?」
「おはよう。そうよ早番。優子さんは?」
「私も早番よ」
優子はにこやかだ。いつもの事だ。
結局、優子と同じ天ぷらそばになった。
早番が終わってスマホを1番に見る。大宮駅のまめの木で待ち合わせとメールがあった。
今、終わったからすぐに行くわ。と返信し、急いでバッグを持つとロッカーを荒く閉めた。
「敦さん」
小走りに近づいていく。ヒールのコツコツという軽やかな音がする。
「おう」と敦は手を軽くあげてにこやかに応えた。私はすぐに敦の腕を取る。敦は腕に少し力を入れる。
敦と会ったのは実はマッチングアプリである。付き合い始めてまだ、1ヶ月。最初に会った時は居酒屋だった。
よく見るチェーン店。お互いに笑った。初デートが居酒屋なのだ。普通なら、小洒落たバーなどだろうけど。
お互いに意気投合し、ビールジョッキをカキン!と強めに合わせた。
娘がいるので1時間半くらいが限度だったが、楽しかった。それからはいつも店は違えどいつも居酒屋でまずは一杯だ。
「春菜、お疲れ!」
「敦さん、お疲れ様!」
カキン!と軽いジョッキの音が響く。
「敦ってそろそろ呼んでくれない?」
敦の顔がにじりよってくる。
私は顔から火が出る感覚を覚えた。
手に少し力がこもる。
「あ、敦…」
顔が見れない。敦の顔が近寄ってくる。
「可愛い」と言ってニヤニヤしてからかってきた。
もう!と私は言ってジョッキをドン!叩きつけるように置いた。
キスしたいよ。と、私の耳元でささやく。
顔から煙があがるほどに恥ずかしかった。敦の顔を見るとぐいっとビールを飲み干していた。私も一気にビールをあおるように飲んだ。敦が笑顔で私を見ている。
「ありがとう、春菜」
何だか照れくさい。
私もキスしたい気分だった。
帰りは危ないからと敦は家まで送ってくれる。8時をすぎていた。
「敦、いつもありがとう」
次は滑らかに名前が出てきた。
私は微笑むと同時に敦の唇が口を塞ぐ。体に電気が走るようだ。
私の住むアパートはほとんど人気がなくて静か。だから、キスしたところで誰かに見られるわけでもない。絡みつく舌が切なさを募らせた。
ギュッと抱き締められて、力が抜けるのを感じる。
「今度の土曜日、泊りにいくよ」
うん。と言うと敦は私から少し体を離した。じゃあな。と、優しい目をして、かんなちゃんにも言っておいて。頬に軽くキスすると去っていった。この時が1番嫌いだ。泣きたくなる。
私は涙を堪えつつ、お母さんに戻った。
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