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金曜日、過去の宮内さん
「ぱぴこ来るんでしょう??」
かんなの目がすわっている。
ぱぴことは言わずと知れず敦の事だ。
今日は金曜日。朝は機嫌の良くないかんなが呟く。
「私のまみこなんだからね!ぱぴこには負けない」
ぎゅーと、私を抱き締めてきた。
2回目よね、この展開。
「遅刻するわよー」
かんなは慌てたように私から離れると壁に掛けてある時計を斜めに見るや「朝練あるんだ、ヤバっ」と大きな声で言ってリュックを背負い、スクールバッグとラケットを素早く取ると急いで廊下を走り薄汚れた白い運動靴を履いた。
いってきまーす!と言いながら走り去るかんなを見送った。
私の予定は遅番。11時から出勤なのでゆっくりだ。
朝の7時半。軽く掃除機でもかけるかな。と、ダイソンの強力な吸引力に操られながら進んでいく。
かんなは毎日、ギリギリに起きる為朝食はない。起きてすぐは食べれないと吐くからとも言うから出せないのだ。
ダイソンは3部屋をくるーと回ると、お疲れ様〜と私は言ってスイッチを切る。
ダイソンを収納し、窓を全開にする。今日は、やや冷たい風を感じる。
気温の変化が激しいこの頃。着ていく衣装に悩む。アパレル定員は、自社ブランドを着なくてはならないし、季節も考えなくてはいけないので毎日悩むのだ。
まずは、朝食よね。と私は食パンを2枚取るとお皿に並べ、トマトソースを塗り、チーズをちりばめ、冷凍庫からジップロックに入ったピーマンとトマトを取り出す。カット済みである。
パラパラとピーマンとトマトをちりばめるとトースターに並べてタイマーを
回した。
かんなみたく起き抜けではないのでしっかり朝食は取る。
「あ!」と一言いってテーブルに置いてあるスマホを手にした。敦からおはようメールが来ている。
「おはよう!かんなは何て言ってた?」
時計を見るとまだ8時過ぎ。返信出来る。
「ぱぴこには負けない。て言ってたわ」
正直にメール送信!
ピン!と3分後スマホが鳴った。
「ぱぴこって何?」
そっかあ、最近言うようになったんだったわ。
ぱぴこは敦の事よ。と、返信。
2分後に俺、ぱぴこってあだ名ついてるの?意味がわからん。だった。
パパって意味よ。と言うと、電話が鳴った。トースターもチン!と鳴った。
「春菜、俺は嬉しいよ!」と、声が弾んでいる。
どこから電話してるのかしら…と思いながら敦の言葉を聞いている。
「ぱぴこも負けないぞ!」
ルンルンという鼻歌が聞こえてきそうな…笑
「もうすぐ着くからまたな!」
スマホからツーという音がして自然にホーム画面が戻った。
明日が楽しみね。
私は、トースターから焼き上がったトーストを取り出した。
マッチングアプリで知り合ったと言うと周りはどう思うのか?
遊びじゃないの?とか思うのかな?
マッチングアプリを始めたのは3ヶ月前。マッチングというアプリで月いくらか支払って男女とも登録する。
相手からいいねがあると相手のプロフなどを見ていいねを返すか決める。
写真ない人はダメよね。
近い人がいいわよね。
実は、婚活始める3ヶ月前には横浜に彼氏がいた。彼は、敦と同じメーカーの工場の方に勤めていた。1年が過ぎようとしていた。その時から別れたいと思い始め、ネットで評価のいいマッチングを見つけて登録したのだ。
横浜の彼とは恋愛というより、身体だけの付き合いになっていた。1ヶ月に1回会っていたのだが、朝8時から夕方の3時までエッチをしていた。蜜に覆われることのない花弁にいきなりミサイルのようにアレを差してくる。痛くて仕方ない。自分だけしたいだけの人なんだと気づいて別れを切り出したのだ。身体がもたない。愛のないセックス何て耐えられず、嫌になっていくだけ。
そんな彼とはFacebookで知り合った。最初は好きだったけど、エッチも丁寧だったのに、1年したら変わってしまった。エッチくらいでと言われそうだけど、私にとっては大事なことのひとつなのだ。
敦からいいねが来て、大宮に住んでること、写真写りが良かったこと。価値観が合うことだった。
私は東大宮に住んでおり、出来たら同じさいたま市に住んでいる人を希望していた。横浜は何度か行ったけど、帰るのが大変。早めに横浜を出ないと門限に間に合わないのだ。
いろいろあって、敦とは初めて会う事が決まった時は不安が無かった訳ではない。
でも、実際に会ったら物凄く気が合うではないか。その日の帰りは門限を過ぎていた。かんなからメールが来ていた。遅ーい、どこにいるの?だった。
2回くらい門限過ぎになった時はまたなの!とメールが入っていた。
でも、許してくれた。
初めて泊りに来たのは付き合って1週間後だった。かんなに彼氏出来たのというと、連れてきてと言われたから。止まる予定ではなかったけど、お酒が進み、かんなとも話したりしていたら終電を過ぎていた。次の日は土曜日でたまたま、敦が休みだったのもあって泊まってもらうことになったのだ。
男と女、ひとつ屋根の下にいる。私はわざと敦に背を向けていた。
ドキドキ心音が鳴り響いているのがわかった。敦にこっち向いてと言われ、素直にくるっと身体を回転させた。
「愛してるよ…」と囁かれ、キスされた。とても丁寧なキス。舌が私の唇を開くと舌を絡ませてきた。キスだけでとろけそうになった。身体の力が抜けるのがわかった。軽薄ではないかと思いつつも心が揺れて敦の腕を振り解くことはできなかった。
予想以上に私は感じてしまった。
「やだぁ」
明日を期待している自分に軽薄さを感じられずにはいられなかった。
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