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友 達
午前中の授業が終了し昼休みの休憩、昼食の時間。
美穂は持参してきた弁当を机の上に広げる。その量は女の子が一人で食べるには明らかに多すぎるボリュームであった。
彼女がいつも、中庭などで直也と二人で昼食をしながら時間を過ごすのが日課であったが、今日はそんな状況でもなかった。
「本当にあなた達どうしたの?一条の雰囲気もなんだか少し違うし、本当に何かあったの?」目の前の席に座る篠原昌子心配そうに聞いてくる。
その横には、同じクラスメイトの小林まどかが座っている。入学の頃から仲の良かった三人組ではあったが、美穂と直也が付き合うようになってからは、このメンバーで昼食を取るのは久しぶりであった。
「実は、昨日お母さんが仕事で帰って来ない日だったから、直也君を家に呼んで……」美穂は昨日の出来事を二人に話した。
「えっ、凄い。美穂ちゃん積極的……」まどかは、箸を口に軽く咥えたまま、顔を赤らめていた。彼女は男性との交際経験はまだなかった。
「うーん、策士策に溺れるってやつかな」それらしい事を昌子がいったが、それが適切なのかどうかはよく解らなかった。
「やっぱり……、嫌だったのかな?そういうの……」美穂はシュンとして頭を垂れた。
「いやぁ、男なら嫌な訳ないっしょ!男なら!」昌子は弁当箱の中からだし巻きを摘まみ出して口に放り込んだ。
「私はよく解らないけど、美穂ちゃんの事を大切にしたかったんじゃないかな」まどかの顔は赤く染まったままであった。乙女らしい発想であると昌子は思った。
「でも、なんか一条、急に賢くなったみたいで驚いたわ!正直、別人みたいだった」昌子は、次にウインナーにかじりついた。会話をしながら自動的に食事をする機械のようだとまどかは笑った。
「そうなのよ。なんだか人が変わったっていうか……」美穂は食が進まない様子であった。箸を弁当箱の底に立てまま会話を続けていた。
「美穂……、食べないのなら、私が貰おうか?」早々に自分の持参してきた弁当を食べ終えて、昌子の目線は美穂の弁当箱にロックオンされている。
「昌子ちゃん、意地汚いよ」まどかは少し呆れた口調で釘をさした。昌子は人差し指を口に咥えて少し悲しそうな顔をした。
「いいよ、昌子にあげる」言いながら美穂は自分の弁当箱を昌子に差し出した。それは、元々直也と一緒に食べる事を想定して作られた分量であった。
「やっりー!ありがとね美穂」昌子は満面の笑みを浮かべながらお礼を言った。
「もー、昌子ちゃんたら……意地汚い・・・・・・」まどかはもう一度、呆れたようであったが、その顔は笑っていた。
「そんなに気になるなら聞いて見れば良いじゃん、本人に」美穂の弁当を頬張りながら昌子は呟く。
「でも、そんな……」美穂は勇気が振り絞れないようであった。昌子がそんな美穂の態度に少しイライラした様子であった。
「よし!仕方ない。私が聞いてあげるよ、この弁当のお礼という事で!」昌子は、こぶしで自分の胸を叩く。まるでゴリラのドラミングを連想させる。
「えっ、いいの?」美穂は大きく目を見開いた。
「まかしんしゃい!」ガッツポーズをとりながら、どこの方言か解らないような言葉で昌子は返答した。
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