愛している

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愛している

 全ての授業が終了した放課後の教室。生徒達は帰宅の準備をすすめている。  意を決したように昌子はゆっくりと直也の席に近寄る。 「おーい、一条、話があるんだけどいいかな?」昌子はスカートの前を押さえ、直也の前の椅子に馬に股がるように後ろ向きに座ると唐突に質問した。その男のような仕草に回りの男子達は驚く。あわよくば下着が見えるのではないかと目を凝らしたが、その望みは叶わなかった。 「ああ、いいけど唐突に何なんだよ?」直也は外を眺めていた目を、頬杖をついたまま昌子のほうに向けた。その高校生とは思えない大人びた視線に昌子は少しだけドキリとした。 『一条って、こんなに恰好良かったけ・・・・・・・』彼女はなぜかゴクリと唾を飲み込んだ。  少し離れた場所から、美穂とまどかがその二人の様子を観察している。二人の喉からもゴクリと唾を飲みこむ音がする。 「一条、あ、あんたさぁ、美穂と付き合っているんだよね?恋人なんだよね?」一応確認するかのように問いかける。なぜ自分がこんなにドギマギするのか自分でも解らない。 「ああ、そうだな……、俺達は恋人同士だな・・・・・・」直也は素っ気ない返事をした。小さくため息をついたかと思うと視線は再び校庭を眺めているようだ。 「なんだかよく解らないんだけど、あんた美穂の事嫌いになったの?それとも今でも好きなの?あの子相当不安になっているよ」見事に単刀直入(たんとうちょくにゅう)な質問の仕方に、美穂とまどかはずっこけそうになる。 「もうちょっとオブラートに包んだ聞き方を……」まどかは小さな声で呟いた。昌子のそういうストレートな処も彼女に魅力の一つである。 「今さら何を聞いているんだ。そんな事決まっているだろう。俺は美穂の事が好きだよ……、好きっていうよりも愛している、いや彼女の事は誰よりも愛おしいよ」直也は恥ずかしげもなくその言葉を淡々と口にした。その真っ直ぐな視線に昌子は硬直した。 「あ……そうですか……」予想しなかった返答が返ってきた為に、昌子の目が文字通り・《てん》になってしまった。まるで爆撃を受けたかのような衝撃であった。しばらく言葉を発することさえ忘れてボーと直也の顔を見つめていた。そしてなぜか軽い失恋でもしたような虚無感にも襲われた。 「他にも何か聞きたい事があるのか?」直也は平然とした顔で質問を返してきた。 「いいえ、なにもござらん!せっしゃは失礼いたす!」そういうと昌子は忍者のようにサッと退散した。  二人の会話を聞いていた美穂は顔面から火が吹き出しそうな位真っ赤な顔をして教室の床を見ていた。感染したかのように隣のまどかも顔を真っ赤に染めている。 「あー、馬鹿馬鹿しい。御馳走様でした」頭の後ろで腕を組み昌子が戻ってきた。 「あの……昌子」美穂は言葉が出なかった。「美穂の事を世界で一番愛している。……そうだぜ」昌子は男子の声色(こわいろ)を真似した。 「良かったね。美穂ちゃん」まどかはまるで自分の事のように嬉しそうに飛び上がりながら小さな拍手をした。 「うん……」美穂は嬉しそうに微笑んだ。
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