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彼女に出会ったのは、雪のそぼ降る12月だった。彼女はぼくの家の前で、庭の木に時代遅れのカメラを向けていた。
「何をしているんですか?」
ぼくが声をかけると、彼女が振り向く。目が大きい、かわいい女の子だ。訝しげにぼくを見つめる。
「あなたは、どなた?」
「それはぼくのセリフだ」ぼくは呆れ顔で、彼女がカメラを向けていた木を指さす。「これはうちの庭の木ですよ」
「あ……ごめんなさい」とたんに彼女はバツの悪そうな顔になる。「雪が枝に積もってて、きれいだったもので……」
「それ、カメラですか?」
「ええ。2010年代のものです」
「それは年代物だ。そう言えば……まだ、あなたの名前を聞いてなかったね」
「あ、そうですね、私は……Aとでも呼んでください」
「それじゃぼくは、Bということにしようか。よろしく」
「こちらこそ」
ぼくが右手を差し出すと、Aも右手を差し出し、ぼくの手を握る。
その瞬間。
ぼくは、彼女がぼくを振り返った瞬間の網膜イメージを、BI(生体工学インターフェース)経由で彼女に送る。ありきたりな挨拶だ。
「あ……」
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