写 真

1/4
前へ
/4ページ
次へ
 彼女に出会ったのは、雪のそぼ降る12月だった。彼女はぼくの家の前で、庭の木に時代遅れのカメラを向けていた。 「何をしているんですか?」  ぼくが声をかけると、彼女が振り向く。目が大きい、かわいい女の子だ。訝しげにぼくを見つめる。 「あなたは、どなた?」 「それはぼくのセリフだ」ぼくは呆れ顔で、彼女がカメラを向けていた木を指さす。「これはうちの庭の木ですよ」 「あ……ごめんなさい」とたんに彼女はバツの悪そうな顔になる。「雪が枝に積もってて、きれいだったもので……」 「それ、カメラですか?」 「ええ。2010年代のものです」 「それは年代物だ。そう言えば……まだ、あなたの名前を聞いてなかったね」 「あ、そうですね、私は……(アルファ)とでも呼んでください」 「それじゃぼくは、(ブラボー)ということにしようか。よろしく」 「こちらこそ」  ぼくが右手を差し出すと、Aも右手を差し出し、ぼくの手を握る。  その瞬間。  ぼくは、彼女がぼくを振り返った瞬間の網膜イメージを、BI(生体工学インターフェース(Bionics Interface))経由で彼女に送る。ありきたりな挨拶だ。 「あ……」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加