先生と私(と、ときどき兄)

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 講義の間に寝てしまうのは私が悪い。  それはもちろん心の底から分かってはいる。  だけど、先生の方にだってそれなりに責任はあるのだ。  まず顔だ。穏やかで優しげなどこにもトゲのない表情を終始浮かべている。この顔ではいってこられて、教室を見渡しゆるくうなずいて微笑む。この優しさがまず私を眠らせる。マイナスイオンが出ているのだよ。  そして、次は声。すでにうなだれかけている私に追い討ちをかける。本を開いて何かおっしゃる。その特徴的な声はモーツアルトをしのぐ。1/f揺らぎだか何だかとにかく人の精神を強制的に休めるとんでもない代物だ。  そして、そろそろ限界を迎えつつある私に最後のトドメを刺すのは板書の文字。先生の文字の書き方が独特なのか、何か特別な道具でも使っているのか、とにかくその文字を見たら、もうダメだ。華美さの欠片もないその文字を一目見ようものなら、もう何にもわからなくなってしまう。それなのに、講義終了のチャイムが鳴り始めると、呪いがとけたようにぱっちりすっきり目が覚めて、清々しい思いでのびをする。どう考えても私だけのせいだとは思えない。  そこで私は講義の前日には寝ないで夜通し対策を考えることにした。
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