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対策1
まずは先生の顔だ。あんな穏やかで優しげな表情をされていたのではどんな強者だって眠気をもたらされてしまう。
そこで私は考えた。
名案を思いついた。
見なきゃいいじゃん!
だけどもちろん講義の間、目をつぶっているなんていうのは論外だ。そんなことをしたら0.5秒で寝てしまう。翌朝、私は兄の部屋をあさりフルフェイスのスキーマスクとサングラスを用意した。サングラスだけでも十分かとは思ったけれど、先生の顔から出るマイナスイオンをできるだけ避けたほうが得策だ。本当はつけて学校まで行きたかったけれど、残念ながら駅で止められたから仕方なく途中で脱いだ。
さて本番。
薄暗い講義室の中でのサングラスの効果は絶大で、つけた途端に世界が薄ぼんやりとした。よしよし。時間通りに先生らしき背格好の人が入ってくる。いいぞいいぞ。いつものように講義室を見渡し、それからピタリと私のあたりで目をとめた。妙にうろたえたようにしてあわてて、テキストを開いている。どうやら先生の魔の手が私に届かないのを知って動揺しているようだ。順調だ。慌てる先生だけを置き去りに講義室はいつもよりずっとしんとしていた。そのしんとした間が、どのくらい続いたのか、実は私にはよく分からない。
寝てしまったのだ。
サングラスの薄暗さとフェースマスクの暖かさ、それに加えて先生が妙にぱらぱらとめくり続ける紙の音。素晴らしいコラボレーションだった。
私はまた先生に負けた。
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