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板書の文字。とにかくこれをなんとかせねばならない。まずはPlan Aとして、「3週間で字が綺麗になる ボールペン字練習帳」をそっと先生のカバンに忍ばせておいた。その本を見つけた先生は不思議そうに首をひねっていたけれど、そのうちぱらぱらページをめくり、「ホゥ」というような声を出して読み込んでいた。
それからしばらくして先生の板書の文字は劇的に向上した。
なのに私の眠りはまだおさまらない。
やはり、先生が使っているあのペンが怪しいと踏んで、Plan Bを開始することにした。このPlan Bはこれまでになくなかなか労力を喰うもので、途中、色々面倒くさくなったから、なるべく他の講義は出ないようにした。サボった中には卒論のゼミとかあったけどいたしかたない。
やることは至ってシンプルだ。
先生の持つマジックをすべてピンク色に変えてしまうのだ。蛍光色のチカチカするやつ。ずいぶん見にくいだろう。だけど、白板に黒字というモノトーンの世界から抜け出す唯一の手段だ。もちろん、この作業はじっくり時間をかける必要がある。先生の筆箱には常に4本のマジックが板書用に用意されている。これをいっぺんに変えてしまったらいくらなんでも気づかれる。だから、細心の注意を払って、一本ずつ変えていくのだ。奥の方からこっそりと。
書き味も重要だ。メルカリで何種類かのペンを買い、何度も試して最適なペンを選んだ。残りのペンは包装し直して兄の部屋に置いてきた。勝手にメルカリのアカウントを借りたお詫びだ。メルカリで買っていた怪しげなもののことも今のところは知らないふりをしておいてあげよう。言いふらしたいけど、我慢する。今はまだ。
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