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◇
星一と別れた後、雨宮は自分の部屋である隣の部屋のドアを開ける。靴を脱いで上がれば、ゴミ一つ落ちていない綺麗な部屋が彼女を出迎えた。
星一の部屋と構造が同じなのが不思議なほど整っていて、良く言えば片付いているが悪く言えば物が何も無い殺風景な部屋だった。
「……」
台所の浄水器からガラスカップに水を溜め、ゴクリと飲み込む。そこから部屋を眺めると、心が空虚になっていく。
自由を求めてここに逃げてきた。
けれど、自由になった途端何をすれば良いのか分からなくなる。この何も無い部屋は今の雨宮と同じだ。空っぽでつまらない、自分と同じだ。
「…………」
何かが始まると思った。
新しい高校生活。友達を作り、愛想笑いを浮かべ、放課後はカラオケをしたり駄弁ったりして時を惰性に過ごす。そういう風になる事を願っていたのに、夢見ていたのに、それは偽りだらけで本物ではなかった。凍った心が溶けることは無かった。
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