LAPD殺人課

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「ミハイロフ。着いたぞ」 運転席のモレッティが唸るように言った。「いつ来ても生きた心地がしない。ここに来るのは今日で何度目だろうな」 三度目。俺は正確に記憶している。いや、記憶だけではない。記録にもはっきり残っている。間違いない。三度目だ。 「見ろよミハイロフ。黒人しかいねえ。俺は髪が黒いからどうにか溶け込めるが、ソ連生まれの金髪のおまえは針のむしろに座る気分だろうな」 俺達は通りに停めたセダンから降り立った。 モレッティがジーパンの股関節の辺りをボリボリかきながら、かーっと嫌な音を鳴らして歩道に痰を吐いた。 「モレッティ。俺はロシア系だがLA生まれだ。ソ連なんて知らねえ。いつの時代の話をしてんだ」 「レーニン閣下。これは失礼」 「ふざけんなスパゲッティ野郎。まったく頭にくる野郎だぜ」 「熱くなるなって」 「おまえだってムッソリーニ呼ばわりされたら頭に来るだろう」 「マジになるな。ところでムッソリーニって誰だ。コメディアンか」 モレッティがボロ屋敷の敷地に入り、芝生の上をずんずん歩いてゆく。通りにたむろする黒人達が罵声を浴びせかける。罵声につぐ罵声。タフに生きようと誓った俺達の宿命だ。俺達の仕事はメンタルの弱い人間には決して務まらない。
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