19人が本棚に入れています
本棚に追加
「やっと気づいてもらえて、嬉しいです」
三重県警本部の取調室で、宗太は言った。
宗太は被疑者席に座らされ、その彼と向かい合って座るのは継続捜査班の高柳仁美。記録員として、同じく継続捜査班の古河愛子が記録デスクに座っていた。愛子はいつものように刑事としては場違いなファッション――今日はギンガムチェックのワンピースだ――だったが、宗太は動じることなく真正面の仁美を見据えていた。
腹が据わっているというよりは、本当に安堵して、それが集中につながっているようだ。
仁美は一つ感嘆のため息をついた。
「十八年でしょ。随分と長い間、逃げたわね」
「逃げたって言うか――誰にも見つけてもらえなかった、気づいてもらえなかったって言うのが実感ですよ」
「そうみたいね。あなた、子どもの頃から影が薄かったらしいし」
「そうなんです。ボクなんて、いてもいなくても同じようなもので。――ボクの過去まで調べたんですか?」
「ええ。再捜査の過程でね」
「でも、十八年前の事件です。どうして今さら、再捜査が始まったんです? あの似顔絵もよくできていましたが、以前まではずっと、ボクの顔写真が指名手配ポスターに使われていましたよね?」
仁美はちらりと愛子を見やる。
愛子は記録用紙に懸命に鉛筆を走らせているが、その手つきは、どう見ても文字を書いている手つきではない。どうせまた、被疑者の似顔絵でも描いているのだろうが、彼女の描く絵は単なる落書きの域を超えていて、むしろ記録のほうが落書きに思えてくるほどだ。
古河愛子は《事件を描く》刑事ーー否、絵描きだ。
最初のコメントを投稿しよう!