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「やっと気づいてもらえて、嬉しいです」  三重県警本部の取調室で、宗太は言った。  宗太は被疑者席に座らされ、その彼と向かい合って座るのは継続捜査班の高柳仁美。記録員として、同じく継続捜査班の古河愛子が記録デスクに座っていた。愛子はいつものように刑事としては場違いなファッション――今日はギンガムチェックのワンピースだ――だったが、宗太は動じることなく真正面の仁美を見据えていた。  腹が据わっているというよりは、本当に安堵して、それが集中につながっているようだ。  仁美は一つ感嘆のため息をついた。 「十八年でしょ。随分と長い間、逃げたわね」 「逃げたって言うか――誰にも見つけてもらえなかった、気づいてもらえなかったって言うのが実感ですよ」 「そうみたいね。あなた、子どもの頃から影が薄かったらしいし」 「そうなんです。ボクなんて、いてもいなくても同じようなもので。――ボクの過去まで調べたんですか?」 「ええ。再捜査の過程でね」 「でも、十八年前の事件です。どうして今さら、再捜査が始まったんです? あの似顔絵もよくできていましたが、以前まではずっと、ボクの顔写真が指名手配ポスターに使われていましたよね?」  仁美はちらりと愛子を見やる。  愛子は記録用紙に懸命に鉛筆を走らせているが、その手つきは、どう見ても文字を書いている手つきではない。どうせまた、被疑者の似顔絵でも描いているのだろうが、彼女の描く絵は単なる落書きの域を超えていて、むしろ記録のほうが落書きに思えてくるほどだ。  古河愛子は《事件を描く》刑事ーー否、絵描きだ。
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