◇第一章◇

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 舜一郎の横を彊尸(キョンシー)の大家族が通り過ぎる、通り過ぎる、通り過ぎる……あまりの長さに舜一郎は苛々してその列に割り込むように横断しようと脚を動かした。 「舜一郎くん? 舜一郎くんじゃないかい?」 舜一郎は横断するのをやめて声の方を振り向いた。そこに眼鏡をかけた一人の僧侶が舜一郎を見て思いがけない嬉しさと懐かしさを隠しきれない表情で立っていた。それは舜一郎も同じだった。 「龍一!?」 「やっぱり舜一郎くんだ! 横濱に出てるっておじさんから聞いたけど……あれから元気だったかい、今、何処に居るだい?」  龍一は袈裟をばっさばさと羽根のように動かしながら大袈裟に舜一郎の手を掴んでぶんぶんと振る。星野龍一は鎌倉にある慧安寺の息子で今は住職を勤める、舜一郎の幼馴染みで数少ない心許せる親友だ。 「この近くに住んでいるんだ。それより龍一もどうして此処に? 千日回峰行を終えて慧安寺を継いだんだろう?」 「継いださ〜。今日は中国の僧侶たちとの談合があって横濱まで出てきたんだ。日本のあやかしたちが中国の寺院の方で悪さをしちゃっているみたいでその対策をたてにきたんだよ」 龍一はそう言ってため息をついた。龍一は目にした雅号を無効化する『開眼無効(めにうつったものこうをなさない)』という珍しい雅号を見込まれて、慧安寺の住職になると同時に神々とともに街や都市の運営に携わる数少ない人間になった。昭和前期最後に起こった世界大戦は人間だけで無く、神々やあやかしたちにも大打撃だった。依代も祀られていた社も杜も全壊、半壊してしまい戦果に加えて封じられた悪しき神々と天変地異、災厄を象徴するあやかしたちが跋扈し、多くの女子供が拐われ行方不明になった。人間たちは大戦の賠償や日々の生活の立て直しで疲れ切り、神々たちのことまで手が回らなかった。神々たちは収拾の為に奔走し、人を動かした。  それ以来この国の(まつりごと)には神々やあやかしたちも参与する。古来神々の言葉が絶対であった時代、神々やあやかしが人間たちのすぐ隣、すぐ側に在った時代、その時間が長かったことを思い出した人間たちは承諾したが、神々や魔法生物に左右されない西洋世界に慣れ親しんだ者たちも多く反対の声も挙がった。全国投票の結果、自治権の決定は各都道府県に委ねられ、都市や街ごとに政形態にはかなりの違いが現れた。例えば京都府の公的機関に人間職員は一人もいない。逆に横濱市には神々は五人もいない。鎌倉市は京都寄りで神々やあやかしの方が多く、龍一は数少ない人間の役人なのだ。
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