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俗にいう「半立ち」の状態だが、初めて見るミラにはわからない。肉塊のグロい色合いと、周囲にわたる茂みの濃さにひっくり返りそうになる。
「これ……これを……」
ミラはごくんと息をのんだ。これから自分が行うことに顔から血の気が引いていく。
何しろ血筋が血筋であるから座学で習ってはいたものの、性的に興奮したそれを実際に見たのは初めてだった。耳年増もここに極まれりだ。
大分ミラに慣れて来たらしい彼は、ため息をついて口を開いた。
「あのですね。先に言っておきますが、あまり時間がないんです。今、私の体の中には黒い力がうずまいていて、私自身の意志の力と、部屋の外にいる神官達の祈りでどうにか抑えてるんです。あなたがこれを何とかしないと、私どころか都全部が黒い力に侵されます。……あなたは力に侵されず、この部屋の中まで入って来ました。これを何とかできるのはたしかにあなただけでしょう。できることなら協力しますから、早く術とやらを行使してください」
逆に教えさとすように告げられ、ミラは小さくうなずいた。
「わかりました……そうですね。怖がってる場合じゃありません。それではちょっと失礼して」
持って来た小瓶から薬液を出し、広げた手のひらにしずくをたらす。
「あ、これは避妊薬です。やっぱり行為が行為ですから、そのままだと術者である私にも色々と支障がありますので。これをまんべんなくこちらにぬります──嫌だなあ」
「あなた本当に失礼ですね」
できる限り視線をそむけて、見ないようにしてそれにふれた。
びくっと震える肉柱は生き物のように生々しい。しかし心で気合を入れて、それを手のひらで包み込んだ。何とも言えない感触に再び眉をよせながら、持って来た薬液をぬりつける。
「う……」
さすがの彼もうめいたが、ミラの方だってこんなもの見るのもさわるのも初めてだ。術に必要な過程なのだが、気持ち悪くて仕方がない。
「あ、前よりもっとおっきくなってきた……うわっ……わー、まだ大きくなる」
「実況はいいから早くしてください」
おっかなびっくりぬり終わる頃には、初めたれていたヘビの頭が完全に上を向いていた。学んだ通りの状態に変わったことをたしかめる。
「私が術を行使するには、男性側の状態が十分に整っていないとダメなんです──こ、これでどうですか?」
どくどく脈打つものを認めて、持ち主である彼に聞く。
彼は眉間にしわをよせた。
「どうって……何がですか」
「えっ、あの、なんか、……そろそろもよおしてきたりしません?」
二人の間に沈黙が流れた。
何とも言えない表情で神官がミラの顔を見る。彼は再びため息をついた。
「わかりました。あなたが何をしたいのかはなんとなく理解しましたから、それでは今度はこっちからお願いしてもいいですか?」
「えっはっはい、……?」
ミラがうなずくと、今まで教師のようだった彼の顔つきが変化した。引き締まった口元の両端をつり上げてにやりと笑う。
ミラは思わずおののいた。邪悪な力に侵されているせいか、聖なるはずの神官が何だかとても悪い人に見える。きっとお父さんやお母さんに「あの人について行っちゃいけません」と説教されるレベルの悪い顔だ。
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