21.式

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 長身の彼がいるだけで陣を描くための場所をふさぐ。寝台に追いやられた彼は、めずらしく心もとなさそうにミラがすることを眺めていた。  ミラは焼いた香木のかけらで、以前神殿で描いたものと同じ魔道陣を床に描いた。以前と同じく本を見ながらだが、今回の方が早く終わった。 「やはり二度目だと違いますね」  感心したようにグラタスに言われ、ミラは再び笑って答えた。 「前はあなたに見られていたから。私を見る目が本当に怖くて……ずっと指が震えていたの」 「怖い? 私がですか?」  グラタスが心外そうな顔をする。  ミラは大きくうなずいた。 「ええ、すっごく怖かったです。びくびくしながら話をしてたの、わからなかった?」 「……」  彼はむっつりと黙り込んだ。本気で怖がられていたことを知り、かなりショックだったらしい。前髪をくしゃっとかき上げて、深々とため息をつく。 「どうやら私達はもう少しお互いのことを知るべきですね。──わかりました。それではいくつか質問しましょう」  寝台の上にすわり直すとなぜか勝手に問答を始めた。 「あなたはあの後、私とすごした時を思い出すことはなかったんですか?」  道具袋に手をつっこんで薬を準備していたミラは、言われた質問に顔を上げた。 「……はっ?」 「一度たりともあの時のことを思い出しませんでしたか? 私の言葉も、したことも、あなたが感じたことも全部?」 「は……ぐ、ぐらた──えっ?」  いきなり問われた言葉の内容に頭の中がフリーズする。  グラタスはあくまでも真面目な顔で、セクハラそのものの問いを続けた。 「それでは質問を変えましょう。あの時のことを思い出し、自分で慰めたことはなかった? 私が欲しくなることはなかったんですか?」 「なななんですかその質問は⁉ 言ってることがかなりちょっと──」  動揺するミラの顔を見すえ、至極真剣に彼は答えた。 「私にはありましたよ。あの後、思い出すたびにあなたを求めてつらかった。毎晩ここで記憶のなごりを集めて自身を慰めていました。時には腹が立つくらい、あなたのことが欲しかった。あなたにはなかったんですか? あの時のことを思う瞬間が」 「……!」  ミラは耳まで真っ赤になった。そう言われるとベッセラ邸で彼の存在を間近に感じ、無理やり記憶を振り切った時のことを思い返してしまう。  自分の言葉に動じるミラの素直すぎる反応に、言質を得てグラタスが笑った。 「よかった。私だけがこんなにも情欲に捕らわれているのかと思いました。あなたもあの時のことを覚えていて、私を思い出してくれたんですね」 「いや、それはちょっと誤解が──」 「恥ずかしがらなくてもいいんですよ。私達はもう夫婦です、互いを求めて愛を交わすのに何の遠慮もいりません」 「そ、そうじゃなくて、だから」 「そうじゃない? いいえ、夫婦ですよ真実の。昨日のことをもう忘れたんですか」 ──あああもう本当にめんどくさい‼
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