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長身の彼がいるだけで陣を描くための場所をふさぐ。寝台に追いやられた彼は、めずらしく心もとなさそうにミラがすることを眺めていた。
ミラは焼いた香木のかけらで、以前神殿で描いたものと同じ魔道陣を床に描いた。以前と同じく本を見ながらだが、今回の方が早く終わった。
「やはり二度目だと違いますね」
感心したようにグラタスに言われ、ミラは再び笑って答えた。
「前はあなたに見られていたから。私を見る目が本当に怖くて……ずっと指が震えていたの」
「怖い? 私がですか?」
グラタスが心外そうな顔をする。
ミラは大きくうなずいた。
「ええ、すっごく怖かったです。びくびくしながら話をしてたの、わからなかった?」
「……」
彼はむっつりと黙り込んだ。本気で怖がられていたことを知り、かなりショックだったらしい。前髪をくしゃっとかき上げて、深々とため息をつく。
「どうやら私達はもう少しお互いのことを知るべきですね。──わかりました。それではいくつか質問しましょう」
寝台の上にすわり直すとなぜか勝手に問答を始めた。
「あなたはあの後、私とすごした時を思い出すことはなかったんですか?」
道具袋に手をつっこんで薬を準備していたミラは、言われた質問に顔を上げた。
「……はっ?」
「一度たりともあの時のことを思い出しませんでしたか? 私の言葉も、したことも、あなたが感じたことも全部?」
「は……ぐ、ぐらた──えっ?」
いきなり問われた言葉の内容に頭の中がフリーズする。
グラタスはあくまでも真面目な顔で、セクハラそのものの問いを続けた。
「それでは質問を変えましょう。あの時のことを思い出し、自分で慰めたことはなかった? 私が欲しくなることはなかったんですか?」
「なななんですかその質問は⁉ 言ってることがかなりちょっと──」
動揺するミラの顔を見すえ、至極真剣に彼は答えた。
「私にはありましたよ。あの後、思い出すたびにあなたを求めてつらかった。毎晩ここで記憶のなごりを集めて自身を慰めていました。時には腹が立つくらい、あなたのことが欲しかった。あなたにはなかったんですか? あの時のことを思う瞬間が」
「……!」
ミラは耳まで真っ赤になった。そう言われるとベッセラ邸で彼の存在を間近に感じ、無理やり記憶を振り切った時のことを思い返してしまう。
自分の言葉に動じるミラの素直すぎる反応に、言質を得てグラタスが笑った。
「よかった。私だけがこんなにも情欲に捕らわれているのかと思いました。あなたもあの時のことを覚えていて、私を思い出してくれたんですね」
「いや、それはちょっと誤解が──」
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ。私達はもう夫婦です、互いを求めて愛を交わすのに何の遠慮もいりません」
「そ、そうじゃなくて、だから」
「そうじゃない? いいえ、夫婦ですよ真実の。昨日のことをもう忘れたんですか」
──あああもう本当にめんどくさい‼
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