人間競馬

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人間競馬

○人間競馬レース会場 昼 (テレビの映像)      四速歩行の六人の人馬が無表情で全速力でコースを走っている。 周りには観客が馬券を持ち、各々賭けた人馬を応援している。 実況「最終コーナ目前、佐藤ブラック祐介。ぐんぐん駆け上がる、後ろから、ハートクライ産駒の後藤スワーブ翔希がじわりじわりと差を縮めていく・・・、おっと!! なんという速さだーー!最後方から一気に、一気に小野ディープ智弥が追い上げてきた!!流石世界人馬レース優勝馬、小野ディープ智弥、他の人馬をまったく寄せ付けない圧倒的末脚で堂々のゴーーール!!強い、強すぎる!!これで12連覇!!」 歓喜溢れる観客、優雅に四速歩行で歩くディープ智弥。そこにオーナーの小野が近付いてきて頭を撫でる。 血だらけの手のひらを自ら舐めるディープ智弥。 インタビュアーがオーナーに近づく。 インタビュアー「小野オーナー、やはりディープ智弥、やってくれましたね。前評判には体重の増加などで不安の声もありましたが、見事な走りでした。」 小野「この馬の才能は日本、いや世界一だと証明してくれたレースでした。いい馬に恵まれたな、とつくづく思います。この勝利はこの馬のお陰だけではなく、私が信頼を置いているスタッフや調教師の安田のおかげでもあり、非常に感謝をしています。」 映像が止まる。一時停止を押したのは、調教師安田。 ◯人馬調教場 室内 鎖に繋がれてながらテレビを見させられている二足歩行の人間。とニヤリと笑っている安田。 安田「見ろ、ちゃんと聞いたか今の発言。オーナーは俺を信頼している。この伝説の人馬、小野ディープ智弥を育てたのは俺だ。お前も俺の調教を受ければこの人馬のように伝説になれる。沢山の人達を沸かすことができる。お前はこの馬の血を引き継いでいるんだからな〜。優秀間違いなしなんだ。」 人間「ふざけんなよ、なんで人馬なんかにならなきゃいけねえんだ。俺は人間だ、馬じゃねえ。」 安田「お前は人馬の子供だ、人間の子供じゃない。。勘違いするな。」 人間「見ろ、俺は二本足で立ってる。これが真実じゃねえか。」 安田「今世界中にいる人馬全て最初はそうやって言うんだよ。でも調教に調教を重ね、立派な人馬となる。馬たちはみんな人馬なことに誇りを持ってやっている。お前もいつかそれが分かる時が来る。」 人間「わかる気がしねえよ。確かに俺は幼少期から人馬似なる為の教育をされてきた。もう二十歳になるっていうのに国語も数学も分からねえ、漢字すら書けない。知っているのはレースでのコースの位置取りや四速歩行での体の使い方。今更真っ当な人間にはなれねえ。それでも、嫌なんだ、感情を失いただただ走るためだけの小野家の道具になるのは・・・。」 安田は人間に近寄り頭をぽんぽん叩く。 安田「幼少期から馬と生活させ、感情を生まれた時から持たせない人馬の育て方もある。けどな、小野オーナーはそれをしなかった。二十歳になるまで健康な体を作り、筋肉をつけた方がいい人馬になるというデータも出ているからだと思っているからだろうがそれは違う。お前と20年間親子として一緒に生活したかったからじゃないか。」     人間は下を向き唇を強く噛む。 安田「二十歳の誕生日、運命を受け入れろ。これから10年間この閉ざされた空間で馬と一緒に生活するんだ。これを背負いながらな。」 安田は扉を開ける。そこは光も届かない漆黒の闇。そして人間にリュックを背負わせる。 人間はそのリュックの重さに耐え切れず膝をついた。 人間「10年経っても俺が勘違いしてたらどーする。」 安田「そん時は10年 人と生活させて、人馬から人に変える調教をしてやるよ。」 人間「覚えてろよ、その言葉。」 安田「ああ、さあ行け、この暗闇の奥には沢山の馬と、空腹にならねえよう沢山のにんじんがあるぞ。」 人間は四つん這いになりながら扉に入る。  安田が扉を閉め鍵をかける。 安田「バイバイ、マイマネー。」       安田はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。       × × × ◯10年後 レース会場控室    小野「安田、ついにこの馬の初レースの時が来たな、仕上がりは良さそうか?」 安田「ばっちりですね、オッズも1、9倍、断トツの一番人気です。どの予想家もこの馬が1位になる事は間違いないと。」 小野「そうかそうか・・・」 小野が腰を下ろし、満足げに鎖に繋がれている人馬(人間)の頭を撫でる。 人馬(人間)は感情を失いただ一点を見つめている。 安田「オーナー、この馬の名前は何になさったのですか?」 小野「花のように凛と美しく走り抜き、観客の皆さんから金色の歓声を何度も何度も得られるようにという意味を込めて・・・。」 小野が、人馬(人間)に名前の書かかれているタスキをかける。 小野「小野ゴールデン蘭と名付けた」 安田「素晴らしいお名前です。」 係員「レースまで間も無くです、人馬を登場ラインに並ばせてください!」 小野「さ、行こうか。」 小野と安田が蘭を誘導しながら登場ラインに並ばせる。登場ラインの前には扉があり、扉が開くと大勢の観客がいるレース会場。 安田「オーナー。では、初レースの儀式を。」   安田がナイフを取り出し、小野に渡す。 小野が蘭の陰部にナイフをあてる。 小野「ディープ智弥に次ぐ伝説を作ってくれ、ゴールデン蘭!!!小野家の誇りよ。」 小野がナイフで陰部を切り落とす。 ◯翌日 朝 道端に落ちている新聞。そこには一面に人間競馬のことが記されており、見出しにはこう書かれている。 『小野ゴールデン蘭 圧倒的勝利!伝説再来か!?』                         終
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