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私の家にはあるカメラがある。それはそのカメラで撮った写真には、自分でも忘れ去ったはずの小さな思い出が写り込むという摩訶不思議なカメラだ。小さい頃、祖母から貰ったそのカメラは、一度も使われずに棚の中に仕舞われている。それはなぜか。誰も祖母の言葉を信じなかったからだ。
そもそも、思い出が写るカメラなどファンタジックにも程がある。
声を揃えて笑った両親。私。弟。
祖母を小馬鹿にしたような態度の私たちは、決して、ファンタジーを信じようとはしなかった。
月日が流れ、祖母が死に、遺言が届いた。その遺言にはあのカメラで家族を写してくれという懇願があり、私たちは仕方なしにとカメラを取り出す。
ホコリを被ったカメラは、まだ使えるのか怪しかった。しかし遺言には従わねばならないと、私たちは並んで自分たちを撮影。カメラから出てきた写真を見て、目を見開く。
そこにあったのは、祖母と仲良く喋る私たちの姿だった。ポーズの全然違うそれは、言ってしまえば日常のワンシーン。小さな思い出だ。
私は堪らず震え、母にしがみついた。母は写真に写る祖母を見て、瞳に涙を浮かべている。
『家族を大切に』
祖母の口が動き、彼女はにこりと笑う。
彼女がなぜ遺言にカメラで写真を撮ることを記したのか。その意味が少しだけ、わかった気がした。
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