3人が本棚に入れています
本棚に追加
「被験者の様子はどうだ」
ある実験施設の一室で、白衣に身をまとった男二人が、いくつも重ねられたモニターの一つを指差して話していた。
「ああなんかまたブツブツ言ってるよ。今度は写真がどうとか」
「写真? そういやテーブルの上に写真置いてるな。なにやってんだ」
「さあ? なんだかよくわからん写真裏返してまた物語でも考えてるんだろうよ」
白衣の男がすっかり炭酸の抜けたコーラを口にしながらぼやく。
「大方、自分で物語を作ってそれを客観的に見てる観測者にでもなってるんだろうよ。まさか自分自身が俺たちに観測されてるとも知らないで」
「自分の世界に入り浸っているのも一種の幸せなのかね」
もう一人の白衣が頬杖をつきながら、モニターに映る被験者をじっと眺めていた。これが動物園のパンダならまだ見ごたえがあったかもしれないが、せいぜい映るのは俯いた男の後頭部ぐらいなものだった。
「んで、アイツの今度の物語ってのはどんなんだ?」
「なんか入社試験にやってきたら一枚の写真が裏返されていて、それを見たらどうなるか、だと」
「なんだそれ」
「なんだそれだろ。俺もさアイツのこと見てたんだけど、なんか俺たちは観測されてるってずっと言ってくるんだよ。気持ち悪くて」
「どうだろう。もしかしたらこうしてる俺たちも本当は見知らぬ誰かに観測されてるかもよ」
「お前も毒されてきたか?」
「こんなところに四六時中いたらおかしくもなりたくなるだろ。お前も気をつけろよ。知らないあいだに被験者になってるかもしれないからな」
白衣の男が「そりゃ怖い話だ」と笑いながら部屋を後にする。
そのモニターの中で男が一人、テーブルに置かれた写真を見つめていた。その写真の裏側には綺麗な文字で『見るな!』と書かれていた。
そしてモニターを見つめる男の手には『見るな!』と裏面に書かれた、その男の後頭部が写った写真が握られていた。
最初のコメントを投稿しよう!