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 ある応接室のテーブルの上に一枚の写真らしき紙が置かれていた。  写真らしき、というのは印刷面が伏せられていて、それが写真だと思われるからというのが理由だ。その写真らしき紙の裏面、ちょうど表を向いてる面に丁寧な文字で『見るな!』と強い口調で書かれていた。  俺は迷った。見るなと言われれば見たくなるのが人の性。しかし、ここは応接室で、俺は今この会社に入社するための面接に来ている。この状況で見るなと書かれているモノを見てしまったら、当然のことだろうが不採用になるだろう。  考え込むように座っているソファーに体を預ける。革張りのいかにも高級品とわかる感触に、この会社がそれなりの業績を上げているんだと感じた。  さて、問題に戻ろう。  今この状況下で普通の人間ならどういう行動をするだろうか。よく、押してはいけないボタンがあったらどうする? という問い掛けがある。これは心理学用語でカリギュラ効果というらしい。ボタンに限らず、開けてはいけない、見てはいけないと言われればその正反対の行動を取ってしまう心理のことだ。今俺自身、そのカリギュラ効果をその身に体験しているということだ。  不思議なもので意識しないようにすればするほど、それが気になって仕方がない。意識しないようにしている時点でそれを意識しているのだから、気になってしまうのも仕方がない。
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