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今夜が最後と思って俺は怜さんの部屋のふすまに近づく。
気配を消してドキドキする、このスリルも今日で終わりか。
しばらく沈黙が続いたが遥斗さんの不機嫌な声で耳をすませる。
「人に書けっていうんなら邪魔しないでおとなしくしててくれない?」
『書け』というけどキーボードのカタカタした音が聞こえる。
文豪気取りで原稿用紙に書いているのかと思った。
「ん…、邪魔しない…で」
「気にしなくていいよ」
締め切りが近い原稿を人に書かせておいて何かイタズラしている怜さんの神経がわからない。
「…ん…、ふ‥」
だんだん遥斗さんの声が吐息になってきてタイピングの音も聞こえなくなった。
「ねえ遥斗…。どうだった?」
「なに…が…?」
「人に聞かれながらセックスするの」
俺の心臓が飛び跳ねた。
バレてたのか。
広いとはいえ自分の家なんだから人の動きくらいわかるかも。
「また遊びにおいで、匠くん」
冷酷な怜さんの言葉を背後から浴びる。
ふすま一枚はさんでここにいるのがバレているのに、音がしないようにそっと立ち上がって逃げ出した。
この夜はいつもより遥斗さんの嬌声が長く続いている気がしてなかなか寝つけなかった。
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