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栄光
曇った銀の空へと情景が変化した。
鋭く冷たい空気が初々しい生の息吹をかき消さんばかりで、芽吹いた桜の木々に強く当たって、無残に花を散らしていた。
中学校、他の小学校からの生徒が合流し、知らない人間が増えた。
それは入学してから数日のことであった。
教室の男子数人が少年A君を虐げていた。
体育の授業から戻ってきて、次の授業が始まる数十分の着替えの間の出来事であった。
少年A君は表と裏の区別がいまだ根付いていなかった。
一人で休み時間の間も絵を書き、花を摘んできては模写するような行動に加えて、不健康なほどに痩せていて頬がこけていた。
見るからに貧弱な容姿が彼らの嫌悪という色眼鏡に栄え映えと醜く映り、目に余る存在だった。
体操服を脱いだ彼の体は骨ばって、並みの男子生徒の体という枠から外れていた。
全体の調和から逸脱している、恥を知らないA君を異物と判断したようだ。
最初は知る限りの罵倒を、徐々に体に触れるちょっかい程度のものがエスカレートしていき、主犯核と思われるリーダーの男の子が背中を蹴った。
A君の細い筋肉の抵抗が、床に倒れた様をしおらしく見せた。
しだいに行動の規範を示した彼の基準が周囲へ伝染していき、取り巻きも真似た。彼らは暴力でもって胸の嫌悪を説明しようとした。
私は、周囲の状況を見渡す。冷笑を浴びせる観客。俯瞰する観客。面白がって好奇の目を向ける物。さまざまな観客がいた。
時間が緩やかに動いているようだった。
私の眼前の少年Aはまぎれもない醜い魔物だった。
かの集団は民衆だ。非力な力は決して王国を救うには行き届かない。
さやから抜いた銀の剣を強く握る。
そして私は叫んだ。
私は勇ましく握ったこぶしを猛々しく振り上げ、魔物へと突進するのだった。
私は称賛される。再び恍惚な栄光の光に包まれた。
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